その2

麻衣


午後3時を回ったったところだ

そろそろ現れる頃だろう…、彼女が

ガラガラガラ…

廃倉庫の引違戸が開き、ゆっくりめの重々しい響きと共に、外の明かりが差し込んだ

コツン、コツン…

そして、明らかに女性のヒールらしき足音だ

「あのー、砂垣さんからココ来るよう、言われたもんなんですけど…、おたくでいいんすかね?」

”彼女”は、うす暗い建物の、ほぼ中央の腰窓にのけぞっている私に声をかけてきた

「ええ、こっちへどうぞ。お待ちしてましたよ」

低いトーンの私の声は、生暖かい倉庫内を漂うように、彼女へと届く

私の背にしている窓からは、強い西陽が差して、彼女のちょうど正面を照らしてる

その光加減はあるにせよ、やけにケバいわ、この人(笑)


...



「まずは、お名前伺おうかしら。フルネームでね」

「ああ…、あの、私、岩本真樹子っていいます」

「岩本さんですね。私は相馬豹一の姪っ子で、相馬豹子。まあ、俗名なんだけど。当分、これでお願いしますね」

その表情から、どうやらこの人、相馬の”性”の意味には、即、反応できてるようだ

「砂ちゃんからは、詳しい話聞いてないと思うけど、今日ここに招待したのは、”面接”ってことです」

「面接?」

「私、当面は事情あって表に立てないんで、意を汲んで動いてくれる”器用”な人、探してたんですよ」

「…、で、私に何をしろというんです?」

「簡単に言えば、砂垣グループになびいてきてる、”赤”連中のコントロールですね。それ、してくれればいいんです」

「あの…、よく、分からないんだけど…」

「そう気張ることないですよ。砂ちゃんから、あなたは適任だって太鼓判でしたから。でも、”契約”はあなたと直です。引き受けてくれるんなら、直接報酬を出すわ。砂ちゃんへはマージン抜きでね」

「それはマズいでしょ。砂垣さん、黙ってないよ。私、あの人たちの反感は買いたくないし…」

ウフフ…、思ったとおりのリアクションだわ

だから、面接場所は”ここ”にしたんだし…


...



私はポケットから一枚の写真を出し、彼女に見せた

「その写真の日付、よく見てね。その日、あなた覚えあるでしょ?」

それは、先日、「ヒールズ」で大場さんを”バリカンの刑”に処した時の、ワンショットだった

岩本真樹子は手にした写真をじっと見て、そして言った

「あっ、この日は私たち、確かここで…」

「そこに写ってる大場ちゃんね、この場所であなた方にヤキ入れ気張ってた、2時間後の姿よ」

岩本さん、さすがに驚いたようで、写真と私の顔、交互に目を行き来させてる