『ユイは何味がいい?』

デート中に突然、彼氏のリュウから尋ねられた。

『じゃあ…。チョコバナナ。』

『おっけ!』

私が味の種類を答えると、リュウは元気よく返事をした。

何気なく立ち寄った広場にクレープの屋台が来ていたので、買ってきてくれるようだ。

…別に食べたいとは言ってないんだけど。

久々のデートだからと張り切るリュウに色々と連れ回されて、疲れていた。

休憩できるならいいか。

そんなことを考えながらぼんやりとしていると、クレープを両手に持ったリュウが戻ってきた。

『ほい!』

『ありがと。』

私達は広場にあった白いベンチに腰をかけた。

クレープを受け取り、口に入れた。

『うまっ!オレ、イチゴチョコにしたんだけどさ。超ウメー!ユイのはどうだ?』

『おいしいよ。』

『そっかそっか!よかったよかった!あっ。お金はいいから!』

『…ありがと。』

リュウは満面の笑みを浮かべた。

彼は何かを与えることで安心する癖がある。

クレープの味は甘くて美味しい。

食べたいわけじゃないけど。

『ってかさ。この後どうする?どっか行きたいトコある?』

リュウの言葉にうんざりしてしまった。

この後どうするって?まだ遊ぶ気…?

もう疲れたんだけど…。

今日は土曜日で、リュウとは3週間ぶりのデートだった。

まず、早朝から集合して動物園に行った。

そして、隣接していた遊園地にも入った。

さらには遊園地から移動して、アウトレットモールも見て回った。

その間、座ることができたのは昼食の時(人気店だったようで、かなり並んでから入店した)だけだった。

人混みの中をひたすら歩き回った記憶しかない。

私はため息交じりに答えた。

『そうね…。』

『あっ!それか映画でも観よーぜ!夜のやつだとちょっと安くなるし!』

残念ながら、私にはもう遊ぶ体力なんか残っていない。

何とかして帰ろう。

言い訳を考えていると、スマートフォンが震えた。

あの人からのメッセージの通知が来た。

《今から来ないかい?》

なんでいつも絶妙なタイミングなんだろう。

この連絡が来たら、私がやるべきことはひとつだけだった。

『リュウ、ゴメンね。親から帰って来るように連絡が来ちゃった。』

『マジか!ユイの家、親厳しいもんな!分かった!送っていこうか?』

『大丈夫。お父さんが迎えに来てくれるみたいだから。』