ミントに焦がれるチョコレート 幼なじみは甘くない

 ついにクラスマッチがやってきた。私は運営のために、グラウンドを右往左往。天気が良くて日に焼けそう。

「ねぇ、奈瑠。試合の時間おかしくない?」

 お昼前、ちょろちょろと駆け回っている私を、光と里桜ちゃんが呼び止めてきた。

「おかしい?」
「パンフレットの時間通りにやると、昼休憩が二時間もあることになるよ?」
「うそ!」

 言われて私はパンフレットに目を通す。本当だ……午後の試合が十四時から始まることになってる! どうして!? 何度も確認したはずなのに……!

「私、三次先輩のところに行ってくる!」

 とにかく、何とかアナウンスをして時間を早めてもらわなくっちゃ。終わる時間が遅くなってしまう!

 私は男子がバレーボールをやっている体育館に駆け込む。くるりと辺りを見回すと、りんちゃんの姿を見つけた。

「りんちゃん、大変だよ!」
「休憩時間のことだろう? 今、広樹が放送かけに行ってる」
「どうしよう私……!」

 どうしようこんな大きなミスをするなんて――! 動揺する私の腕を、りんちゃんがぐっと掴む。

「落ち着け奈瑠。大したことじゃない、放送で解決する問題だ」
「でも!」
「でもじゃない。間違えたのは仕方がない。俺も見落としてた。おまえだけのせいじゃない。後悔するんじゃなくて、この後どうしたらいいか考えろ」

 そう言われて、背筋がピンと伸びる。そうだ、この後どうしたらいいかを考えてなくちゃ。放送は三次先輩がやってくれる。私は――。

「ホワイトボードに正しい時間割書くね! 先生に使用許可もらってくる」
「そうだな、俺も手伝う」
「ありがとう!」
「言ったろ、みんなの責任だ」

 私はりんちゃんと一緒に職員室に駆け込んで、ホワイトボードを貸してもらうようにお願いする。外には持っていけないって言われたから、ソフトボール用には模造紙に書くことにした。それを野球部のスコアボードに張り付けさせてもらう。
 りんちゃんと二人でやると、あっという間に両方の時間割ができた。三次先輩の放送も入って、みんなに伝わる。

「良かった……なんとかみんなに正しい時間が伝わりそう」

 響き渡る放送を聞きながら、私はほっと息を吐いた。

「まぁ、よくやったな」
「本当にありがとうりんちゃん」
「なんだよ、気持ち悪いな」

 りんちゃんが照れているのがわかる。なんだかんだ言って、りんちゃんは頼りになるのです。安心した私は自分のクラスの試合にも性根が入る。

「奈瑠ー! 頑張ってー!」

 里桜ちゃんやクラスの友達が応援してくれてる。私は打席に立って、ピッチャーを見た。ここで打てば、逆転の可能性が出てくる。
 ここまでの私の成績を見ると、打てる可能性はほぼゼロに近いけど。ここは根性を見せたい!

「目ぇ瞑んな、球をよく見ろ!」

 誰かの声がする。そんなこと言ったって、ボールがこっちに飛んでくると反射的に目を閉じちゃうんだよ!

 ピッチャーの先輩、ソフトボール部の人だから球がめちゃくちゃ速いのだ。自分の体に当たった時のことを考えると怖くて体がすくんでしまう。
 先輩が大きく腕を振ってボールを投げた。

「奈瑠、目ぇ開けろ!」

 声に弾かれて、私はパッと目を見開いた。ボールの軌道が見える。夢中でバットを振った。両手に伝わる確かな衝撃、一気に振りぬく。

 沸き上がる歓声ととも走り出す。一塁、踏んで二塁で止まる。このまま打線がつながれば勝てる――!

 次の瞬間、グラウンドにため息が響いた。次の子が打ち上げたボールは運悪く守備の目の前に――グローブが弾いて、運よく転がった。私は必死で走る。ドクドクってすごい速さで動く心臓が痛いよ!

 無我夢中でホームベースを踏むと、みんなが抱きついてきた。嬉しくて私も一緒に「やったー」って声を上げる。

 結局、そのあと試合には負けてしまったけど、クラスみんなが一つになったような気がした。無事に片づけまで終わって、帰り際、私は三次先輩の姿を見つけて駆け寄る。

「先輩、今日はありがとうございました!」
「あぁ、焦ったよね。凛太郎が見つけてさ。でも上手く切り抜けられたよ、新しい時間割と模造紙に書くのもいいアイデアだったね」
「りんちゃんが気が付いてくれたんですか?」
「うん、おかしいなって言って俺にすぐ放送室に行けって。まったく、会長をこき使っていいご身分だよ」

 三次先輩はおかしそうに笑う。

「頼りになるんだよ凛太郎。俺なんか抜けてるからさぁ」
「りんちゃんは頼りになるけど抜けてますよ!」

 そう話していると、背後から頭をがっと掴まれる。うぅ……痛い。

「誰が抜けてるって」
「い、痛いよ……」

 rんちゃんが私の頭を掴んでわしわしと握りつぶそうとしてくる。りんちゃん、手が大きくなったな……じゃなくて、いたた……。

「山本さんは、凛太郎が頼りになるって褒めてたんだよ」
「いや、そんなこと絶対言ってねぇだろ」
「言ったよ! 褒めといた」
「褒めるとか先輩に向かって上からだな。目上の者を敬え!」
「急に体育会系! りんちゃんは先輩というよりりんちゃんだから……」

 こんな私とりんちゃんのやりとりを、三次先輩はおかしそうに笑いながら見ていた。先輩、笑ってないでりんちゃんを止めてください!

 とにかく無事に終わって良かった。一つ心残りなのは、バタバタと駆け回っていてりんちゃんと三次先輩の試合を見に行くことが出来なかったこと。

 りんちゃんと先輩のクラスは優勝していた。きっと二人は活躍しただろうし、格好良かっただろうな。見に行きたかったな……私がパンフレットの時間を間違えなかったら見に行けたかもしれないし、先輩たちにも迷惑かけなかったかもしれない。そう考えたら情けなくなった。もっとちゃんとしなくっちゃ。

 帰り際、駐輪場でりんちゃんが思い出したように私を振り返る。

「打てたな、一本だけど」
「見てた!? 私の神プレー!」
「なに言ってんだよ、神の声のおかげだろーが」

 りんちゃんはにっと口の端を持ち上げると、そのまま自転車をこいで行ってしまう。

「待ってよ、りんちゃん!」

 やっぱりあの時の声はりんちゃんだったんだ──。お礼、言いそびれちゃったな……。

 私は一人自転車をこぐ。もうりんちゃんの姿は見えない。