学校はすっかり文化祭モード。中学校は文化祭運営委員が主導的に動く。部活やクラス単位の出し物も生徒が考えて形にする。自分たちの文化祭感半端ない。お昼ご飯の話題も当然文化祭だ。
「ねぇねぇ文化祭のパンフレット配られたじゃん。見てみた?」
光がお弁当と一緒に教室から持ってきたパンフレットを広げる。生徒が作ったパフレットを印刷会社に依頼して冊子にしたものだ。学校のコピーをホッチキス止めした物とは違って本格的。
「パラパラ見た。クラスと部活の当番じゃない時間に一緒に回ろー」
私も配られた瞬間に中身に目を通していた。見ているだけでもすごくワクワクする。
「体育館のステージで有志のバンドとかもあるんだけど、見に行かない?」
「行く行く!」
三人で当番の時間を見合わせて、明日の約束をしていく。なんだかすっごく楽しい。明日が来るのが楽しみだ。
翌日、いつもより早く目が覚めた。眠ってなんかいられない。ベランダに出ると外の風はすっかり冷たい。私は深呼吸をしてから部屋の中に戻る。
壁の向こうからはゴソゴソと物音がしているから、りんちゃんももう起きているのだろう。朝弱いのに最近の凛ちゃんは早起きだ。
私も今日は少し早くに家を出る。吐く息が白く染まるのが楽しくて、私は大きく息を吐いた。ひんやりとした空気が肺の中に入ってくる。
家を出た瞬間は思わずぶるると震えてしまうくらい寒さを感じだけれど、自転車をこいでいると次第に体があったまってくる。学校に着くころには少し汗ばんでいた。
視線の先に自転車を押すりんちゃんの姿が見える。その横にすらりと背の高い女の子が寄り添うように歩いていた。梶原先輩だ。梶原先輩が何か話しかけて、りんちゃんが相槌を打つようにうなずいているように見えた。なんか、とってもお似合い。
りんちゃんの知らない一面を見たような気がする。そのまま追い抜いて「おはようございます」って挨拶すればいいのに、私はそのまま自転車を押して歩いた。変なの。
毎日早く家を出ていたのは、梶原先輩と一緒に登校するためだったのかもしれない。付き合ってるのかな……そう思うと、りんちゃんが急に大人になってしまったような気がした。
二年生の駐輪場は一年生の駐輪場よりも奥にある。私は手前の駐輪場にさっと自転車を置いて、校舎の中に駆け込んだ。
次第にみんなが登校してくる。いつもより集まりが早い。ホームルームも早めに始まって早めに終わる。文化祭は九時からお客さんが来ることになっているから、各自準備を終えてみんな教室を出て行った。私もその一人。
「手芸部の当番早くに回ってきて良かったねぇ」
里桜ちゃんの言葉に私はうなずく。私と里桜ちゃんは九時から十時までの当番。そのあとクラスの当番があって、午後からはフリーだ。光も午前中に当番が来るって言ってたから午後からは一緒に回ることができる。
手芸部の出し物は展示と販売。私の作ったアクセサリーもたくさん並んでいる。
「里桜ちゃんの作ったチョコミントポーチ買いたいな~」
「私は奈瑠の作ったイヤリング買う! 可愛いし人と被らないし最高だよ。奈瑠はセンスあるからアクセサリー作家とかになったら良いよね」
里桜ちゃんの思わぬ言葉に私は目を丸くする。将来何になりたいかなんて、考えたことなんかなかった。
「アクセサリー作家かぁ……それ、楽しそう」
「でしょう! 手芸部で色々作って修行したら良いよ!」
すごい。考えたこともなかったけど、アクセサリー作家って素敵。自分の作った物で誰かが喜んでくれるのって堪らなく嬉しい。
「今日はそのプレデビューだねぇ」
なんて話していると、お客さんらしき人達がちらほら入ってきた。
私たちが作った作品を見てから、販売コーナーで色々見てくれている。私たちと同じくらいの女の子二人組だ。
「これ可愛くない?」
「ホントだ! 色違いになってる、一緒に買おう〜」
楽しそうに声をあげながら私の作ったイヤリングやブレスレットなんかも見てくれている。
「これをください」
女の子たちが商品を持ってきてくれた。私の作ったビーズのイヤリングとブレスレット……
「あ、ありがとうございます!」
用意しておいたラッピング用の袋に詰める。アクセサリーを嬉しそうに身につけている姿を見て、胸が熱くなった。
お昼になって、光と里桜ちゃんと一緒に食堂に食べ物を買いにいく。お母さんが特別にくれたお小遣いで、パンとミックスジュースを買った。お昼になって、お客さんも朝より多い。学校の中はとても賑やかだ。陽当たりの良い藤棚に座って三人でランチ。
「これから有志のライブが始まるから体育館行ってみよ!」
「ライブって歌うのかなぁ」
「そうでしょ」
「なんか格好いいなぁ」
ご飯を食べ終えて、体育館に向かうと入り口でチラシを受け取る。ライブなんて、行ったことがないから体育館なのにドキドキする。
「ねぇ、ここ空いてる!」
光が空いている隙間を見つけて呼んでくれる。私たちは前から三番目くらいに入り込んだ。
「なんかドキドキするー」
「ちょっと私サイリューム買ってくる! 二人とも何色がいい?」
「私ミントブルー!」
「そんな色あるかなぁ」
「私は紫」
「はいはい了解!」
光はあっという間に三本のペンライトを買ってきた。赤と紫と、私には水色。
「ごめん、ミントブルーなかったから水色にした」
「ありがとう! いくらだった?」
「百円徴収しまーす」
カーテンが閉められ、電気が消えると映画館のように暗くなった。体育館の雰囲気が一変する。あっという間に本物のライブ会場みたい。辺りが暗くなると、司会の先輩が話し始める。
「生徒会の二年生で結成された有志バンド、I SCREAM!」
紹介されて壇上に現れた三人を見て驚いた。
「ねぇ奈瑠! 三次先輩と九条先輩じゃん! 超格好いい! 梶原先輩可愛すぎ!」
「九条先輩からバンドのこと聞いてなかった!?」
「りんちゃんが楽器弾けることも知らなかったよ!」
りんちゃんが低い音のベースでリズムを取り始める。ベースが弾けるなんて全然知らなかった。三次先輩がメロディラインをギターで弾いて、真ん中に立っている梶原先輩がマイクに向かって歌い始めた。私も大好きな人気バンドのポップス。
どうしよう。すごく格好いい。三次先輩と凛ちゃんが楽しそうに向かい合いながら演奏をする。梶原先輩の綺麗な声が体育館に響く。どこからともなく沸き上がる歓声と手拍子。揺れるサイリューム。すごい、会場が一つになっているみたい。
私も自然と体が動く。掛け声に合わせて大きな声を出した。今なら、大声を出しても目立たない。大きな声を出すのって久しぶりだ。とっても気持ちがいい。
ステージの上で三次先輩はこちら側をぐるりと見回しながら楽しそうに演奏をしている。りんちゃんはいつものようにちょっと不機嫌そうな顔で、やっぱりこちら側を見回している。ちょっと、そわそわしているみたいに見えた。誰か探しているみたい。私とは全然目が合わないんだけど。
りんちゃんたちのバンドが終わってから、いくつか有志バンドの演奏があったけど、梶原先輩の歌が一番素敵だった。心の中でいつまでも響く歌声。ついつい口ずさみたくなる。人前では気を付けなくちゃ。
文化祭はあっという間に終わり。お客さんたちはバラバラと帰っていく。教室の片づけをしながら、私は光と里桜ちゃんとバンドの話で盛り上がった。
「めっちゃ格好良かったー」
「奈瑠、先輩が練習してる音とか聞こえなかった?」
「ぜーんぜん。そこが不思議なんだよね」
うちのマンション。古いからお隣のりんちゃんがベースの練習をしていたら絶対にわかると思う。
「マンションで大きな音出せないし、どこかでこっそり練習してたんだろうなぁ」
小学校のときまではりんちゃんのことはなんでも知っていたような気がするのに、中学生になると、私の知らないりんちゃんがたくさんいて驚く。今日の朝のこととか、バンドのこととか。
なんで教えてくれないのって聞いたら、なんで教えなきゃいけないんだよって言われそうだ。まぁ、当たり前なんだけど。
家に帰ると文化祭で買ったチョコミントカラーのポーチにコンパクトミラーとリップクリームを入れた。来週から持って歩こう。
水色のサイリュームを机の上に飾ってみる。素敵だったなぁ、やっぱり生徒会役員って華があるよね。なんて余韻に浸りそうになって首を横に振る。
だめだ、だめだ。私には考えなちゃいけないことがあるんだから。
文化祭も終わったし、生徒総会について考えようと机に頬杖をついていると、隣からドンドンって壁を叩く音がする。りんちゃんがお呼びみたい。そういえば、もしもりんちゃんと梶原先輩が付き合っていたりしたら、私とりんちゃんがお隣同士の幼馴染っていうのも梶原先輩にとっては嫌かもしれないな……なんてことを思ったのは一瞬。ちんちくりんなモブキャラの私なんか梶原先輩の足元にも及ばないのだから、先輩が気にするはずがない。
「りんちゃん格好良かったよ」
「おまえ、体育館来てたの?」
「うん、三次先輩のギターもめっちゃ格好良かったし、梶原先輩超可愛かったー! やっぱり生徒会役員は華があるなって再認識したよ~。私も思わず大きな声出しちゃった」
りんちゃんはブツブツと何か独り言をつぶやいているけど、声が小さすぎて聞こえない。「どこにいたんだよ」って呟いた気がした。
「りんちゃんがベース弾けるなんて知らなかった。持ってないよね?」
「広樹の親父に借りた」
「練習も三次先輩のお家?」
「そ、音楽一家で防音設備完璧」
「りんちゃんズルすぎる! 役得!」
りんちゃんは盛大にため息を吐いた。もう、何のために私を呼んだのかさっぱりわからない。
「おまえ、広樹のことが好きなのかよ?」
急になんてことを聞いてくるのか。私はぼっと顔を熱くした。
「な、そんなわけないよ! 憧れてるだけだって。好きとかじゃないから」
「いや、そのへんどーでもいいから」
「いや、良くないから!」
私はムキになる。三次先輩には憧れているだけ。素敵だなって……格好いいなって。これって、アイドルに憧れるようなものかな?
「今日、でかい声出せたか?」
「う、うん、それなりに?」
「じゃあの時生徒総会のときはそのでかい声で、裏返っていいから」
「裏返ったら恥ずかしいじゃん!」
「広樹と仲良くなりたかったら、ちゃんと考えろ。役員になったら何をしたいか、そのまま言葉にしろ、下手くそでいい、アホでいい」
「アホとかバカとかりんちゃん私に酷くない?」
「本当のことだろうがバーカ」
「りんちゃん!」
思わず大きな声を出すと、お母さんに「静かにしなさい」って怒られた。私は慌てて小声で話す。
「りんちゃん、無茶振り」
「でも楽しいと思うぞ。おまえには向いてる」
りんちゃんは面倒くさがりに見えて、実は面倒見が良いから、性に合っているのかも。でも私には合わない気がするよ――。
「俺も広樹に誘われて入ったけど、楽しかったから。おまえも広樹に誘われたんならちゃんとやってみろ」
「なんか説得力があるような、ないような」
「やるって、決めたんだろ。うだうだすんな」
そうだ。やると決めたのだからきちんと考えよう。これはきっと変わるチャンスなのだ。三次先輩がくれたチャンス。私は生徒会に入って、何をしたいのか、きちんと向き合おう。
「ねぇねぇ文化祭のパンフレット配られたじゃん。見てみた?」
光がお弁当と一緒に教室から持ってきたパンフレットを広げる。生徒が作ったパフレットを印刷会社に依頼して冊子にしたものだ。学校のコピーをホッチキス止めした物とは違って本格的。
「パラパラ見た。クラスと部活の当番じゃない時間に一緒に回ろー」
私も配られた瞬間に中身に目を通していた。見ているだけでもすごくワクワクする。
「体育館のステージで有志のバンドとかもあるんだけど、見に行かない?」
「行く行く!」
三人で当番の時間を見合わせて、明日の約束をしていく。なんだかすっごく楽しい。明日が来るのが楽しみだ。
翌日、いつもより早く目が覚めた。眠ってなんかいられない。ベランダに出ると外の風はすっかり冷たい。私は深呼吸をしてから部屋の中に戻る。
壁の向こうからはゴソゴソと物音がしているから、りんちゃんももう起きているのだろう。朝弱いのに最近の凛ちゃんは早起きだ。
私も今日は少し早くに家を出る。吐く息が白く染まるのが楽しくて、私は大きく息を吐いた。ひんやりとした空気が肺の中に入ってくる。
家を出た瞬間は思わずぶるると震えてしまうくらい寒さを感じだけれど、自転車をこいでいると次第に体があったまってくる。学校に着くころには少し汗ばんでいた。
視線の先に自転車を押すりんちゃんの姿が見える。その横にすらりと背の高い女の子が寄り添うように歩いていた。梶原先輩だ。梶原先輩が何か話しかけて、りんちゃんが相槌を打つようにうなずいているように見えた。なんか、とってもお似合い。
りんちゃんの知らない一面を見たような気がする。そのまま追い抜いて「おはようございます」って挨拶すればいいのに、私はそのまま自転車を押して歩いた。変なの。
毎日早く家を出ていたのは、梶原先輩と一緒に登校するためだったのかもしれない。付き合ってるのかな……そう思うと、りんちゃんが急に大人になってしまったような気がした。
二年生の駐輪場は一年生の駐輪場よりも奥にある。私は手前の駐輪場にさっと自転車を置いて、校舎の中に駆け込んだ。
次第にみんなが登校してくる。いつもより集まりが早い。ホームルームも早めに始まって早めに終わる。文化祭は九時からお客さんが来ることになっているから、各自準備を終えてみんな教室を出て行った。私もその一人。
「手芸部の当番早くに回ってきて良かったねぇ」
里桜ちゃんの言葉に私はうなずく。私と里桜ちゃんは九時から十時までの当番。そのあとクラスの当番があって、午後からはフリーだ。光も午前中に当番が来るって言ってたから午後からは一緒に回ることができる。
手芸部の出し物は展示と販売。私の作ったアクセサリーもたくさん並んでいる。
「里桜ちゃんの作ったチョコミントポーチ買いたいな~」
「私は奈瑠の作ったイヤリング買う! 可愛いし人と被らないし最高だよ。奈瑠はセンスあるからアクセサリー作家とかになったら良いよね」
里桜ちゃんの思わぬ言葉に私は目を丸くする。将来何になりたいかなんて、考えたことなんかなかった。
「アクセサリー作家かぁ……それ、楽しそう」
「でしょう! 手芸部で色々作って修行したら良いよ!」
すごい。考えたこともなかったけど、アクセサリー作家って素敵。自分の作った物で誰かが喜んでくれるのって堪らなく嬉しい。
「今日はそのプレデビューだねぇ」
なんて話していると、お客さんらしき人達がちらほら入ってきた。
私たちが作った作品を見てから、販売コーナーで色々見てくれている。私たちと同じくらいの女の子二人組だ。
「これ可愛くない?」
「ホントだ! 色違いになってる、一緒に買おう〜」
楽しそうに声をあげながら私の作ったイヤリングやブレスレットなんかも見てくれている。
「これをください」
女の子たちが商品を持ってきてくれた。私の作ったビーズのイヤリングとブレスレット……
「あ、ありがとうございます!」
用意しておいたラッピング用の袋に詰める。アクセサリーを嬉しそうに身につけている姿を見て、胸が熱くなった。
お昼になって、光と里桜ちゃんと一緒に食堂に食べ物を買いにいく。お母さんが特別にくれたお小遣いで、パンとミックスジュースを買った。お昼になって、お客さんも朝より多い。学校の中はとても賑やかだ。陽当たりの良い藤棚に座って三人でランチ。
「これから有志のライブが始まるから体育館行ってみよ!」
「ライブって歌うのかなぁ」
「そうでしょ」
「なんか格好いいなぁ」
ご飯を食べ終えて、体育館に向かうと入り口でチラシを受け取る。ライブなんて、行ったことがないから体育館なのにドキドキする。
「ねぇ、ここ空いてる!」
光が空いている隙間を見つけて呼んでくれる。私たちは前から三番目くらいに入り込んだ。
「なんかドキドキするー」
「ちょっと私サイリューム買ってくる! 二人とも何色がいい?」
「私ミントブルー!」
「そんな色あるかなぁ」
「私は紫」
「はいはい了解!」
光はあっという間に三本のペンライトを買ってきた。赤と紫と、私には水色。
「ごめん、ミントブルーなかったから水色にした」
「ありがとう! いくらだった?」
「百円徴収しまーす」
カーテンが閉められ、電気が消えると映画館のように暗くなった。体育館の雰囲気が一変する。あっという間に本物のライブ会場みたい。辺りが暗くなると、司会の先輩が話し始める。
「生徒会の二年生で結成された有志バンド、I SCREAM!」
紹介されて壇上に現れた三人を見て驚いた。
「ねぇ奈瑠! 三次先輩と九条先輩じゃん! 超格好いい! 梶原先輩可愛すぎ!」
「九条先輩からバンドのこと聞いてなかった!?」
「りんちゃんが楽器弾けることも知らなかったよ!」
りんちゃんが低い音のベースでリズムを取り始める。ベースが弾けるなんて全然知らなかった。三次先輩がメロディラインをギターで弾いて、真ん中に立っている梶原先輩がマイクに向かって歌い始めた。私も大好きな人気バンドのポップス。
どうしよう。すごく格好いい。三次先輩と凛ちゃんが楽しそうに向かい合いながら演奏をする。梶原先輩の綺麗な声が体育館に響く。どこからともなく沸き上がる歓声と手拍子。揺れるサイリューム。すごい、会場が一つになっているみたい。
私も自然と体が動く。掛け声に合わせて大きな声を出した。今なら、大声を出しても目立たない。大きな声を出すのって久しぶりだ。とっても気持ちがいい。
ステージの上で三次先輩はこちら側をぐるりと見回しながら楽しそうに演奏をしている。りんちゃんはいつものようにちょっと不機嫌そうな顔で、やっぱりこちら側を見回している。ちょっと、そわそわしているみたいに見えた。誰か探しているみたい。私とは全然目が合わないんだけど。
りんちゃんたちのバンドが終わってから、いくつか有志バンドの演奏があったけど、梶原先輩の歌が一番素敵だった。心の中でいつまでも響く歌声。ついつい口ずさみたくなる。人前では気を付けなくちゃ。
文化祭はあっという間に終わり。お客さんたちはバラバラと帰っていく。教室の片づけをしながら、私は光と里桜ちゃんとバンドの話で盛り上がった。
「めっちゃ格好良かったー」
「奈瑠、先輩が練習してる音とか聞こえなかった?」
「ぜーんぜん。そこが不思議なんだよね」
うちのマンション。古いからお隣のりんちゃんがベースの練習をしていたら絶対にわかると思う。
「マンションで大きな音出せないし、どこかでこっそり練習してたんだろうなぁ」
小学校のときまではりんちゃんのことはなんでも知っていたような気がするのに、中学生になると、私の知らないりんちゃんがたくさんいて驚く。今日の朝のこととか、バンドのこととか。
なんで教えてくれないのって聞いたら、なんで教えなきゃいけないんだよって言われそうだ。まぁ、当たり前なんだけど。
家に帰ると文化祭で買ったチョコミントカラーのポーチにコンパクトミラーとリップクリームを入れた。来週から持って歩こう。
水色のサイリュームを机の上に飾ってみる。素敵だったなぁ、やっぱり生徒会役員って華があるよね。なんて余韻に浸りそうになって首を横に振る。
だめだ、だめだ。私には考えなちゃいけないことがあるんだから。
文化祭も終わったし、生徒総会について考えようと机に頬杖をついていると、隣からドンドンって壁を叩く音がする。りんちゃんがお呼びみたい。そういえば、もしもりんちゃんと梶原先輩が付き合っていたりしたら、私とりんちゃんがお隣同士の幼馴染っていうのも梶原先輩にとっては嫌かもしれないな……なんてことを思ったのは一瞬。ちんちくりんなモブキャラの私なんか梶原先輩の足元にも及ばないのだから、先輩が気にするはずがない。
「りんちゃん格好良かったよ」
「おまえ、体育館来てたの?」
「うん、三次先輩のギターもめっちゃ格好良かったし、梶原先輩超可愛かったー! やっぱり生徒会役員は華があるなって再認識したよ~。私も思わず大きな声出しちゃった」
りんちゃんはブツブツと何か独り言をつぶやいているけど、声が小さすぎて聞こえない。「どこにいたんだよ」って呟いた気がした。
「りんちゃんがベース弾けるなんて知らなかった。持ってないよね?」
「広樹の親父に借りた」
「練習も三次先輩のお家?」
「そ、音楽一家で防音設備完璧」
「りんちゃんズルすぎる! 役得!」
りんちゃんは盛大にため息を吐いた。もう、何のために私を呼んだのかさっぱりわからない。
「おまえ、広樹のことが好きなのかよ?」
急になんてことを聞いてくるのか。私はぼっと顔を熱くした。
「な、そんなわけないよ! 憧れてるだけだって。好きとかじゃないから」
「いや、そのへんどーでもいいから」
「いや、良くないから!」
私はムキになる。三次先輩には憧れているだけ。素敵だなって……格好いいなって。これって、アイドルに憧れるようなものかな?
「今日、でかい声出せたか?」
「う、うん、それなりに?」
「じゃあの時生徒総会のときはそのでかい声で、裏返っていいから」
「裏返ったら恥ずかしいじゃん!」
「広樹と仲良くなりたかったら、ちゃんと考えろ。役員になったら何をしたいか、そのまま言葉にしろ、下手くそでいい、アホでいい」
「アホとかバカとかりんちゃん私に酷くない?」
「本当のことだろうがバーカ」
「りんちゃん!」
思わず大きな声を出すと、お母さんに「静かにしなさい」って怒られた。私は慌てて小声で話す。
「りんちゃん、無茶振り」
「でも楽しいと思うぞ。おまえには向いてる」
りんちゃんは面倒くさがりに見えて、実は面倒見が良いから、性に合っているのかも。でも私には合わない気がするよ――。
「俺も広樹に誘われて入ったけど、楽しかったから。おまえも広樹に誘われたんならちゃんとやってみろ」
「なんか説得力があるような、ないような」
「やるって、決めたんだろ。うだうだすんな」
そうだ。やると決めたのだからきちんと考えよう。これはきっと変わるチャンスなのだ。三次先輩がくれたチャンス。私は生徒会に入って、何をしたいのか、きちんと向き合おう。

