二月に入ると、学校から三年生の姿か疎らになった。受験日だったり、授業がなかったり──校舎の中やグランドが閑散として、どこか寂しかった。
私はというと、手芸部の部室でチクチクと縫物。大好きなミントブルーとチョコレート色の布を縫い合わせていく。真ん中には赤い糸で必勝祈願って刺繍を入れる。
「それ、お守り? 三つも作ってどうするの?」
里桜ちゃんが不思議そうな顔をして尋ねてくる。
「生徒会の三年生に受験のお守りを作ってるんだよ~ 犬の刺繍が三次先輩、猫の刺繍が睦美先輩、それから、狼がりんちゃん」
「あはは、っポイね! 三人とも喜んでくれるよ~」
睦美先輩とりんちゃんを見るのは辛いけど、好きな気持ちは変わらない。睦美先輩は大好きな先輩だから……。
「でーきた! つけやすいようにキーホルダーにしてみたー」
「わぁ可愛い! 欲しいなぁー」
「私たちの受験までに光と里桜ちゃんと私の三人分作ってお揃いにしよう~」
「めっちゃ嬉しい!」
里桜ちゃんが嬉しそうに笑ってくれるのが嬉しい。
「ねぇねぇ今年のチョコレート何がいい?」
里桜ちゃんが視線を落したまま尋ねてきた。可愛い猫のぬいぐるみが、里桜ちゃんの手の中で形になっていく。里桜ちゃんの好きな淡い紫のチェック柄。
「私は生チョコレートに挑戦しようって思ってるんだ~」
「美味しそう! 私何にしようかなぁ……」
りんちゃんにはブラウニーを作ってあげるつもりでいる。受け取ってもらえないかもしれないけど――去年、約束したから。
ねぇりんちゃん、私との約束覚えてる? もう、忘れちゃったかな──。
もう、どうでも良くなっちゃったかもしれない。
みんなには他のものにしたい。りんちゃんだけを、特別にしたい。私の心の中だけでいいから。
お守りを渡したくて睦美先輩に連絡をしたら、「寒いけど藤棚でもいい?」って返事が来た。コートをしっかりと着て藤棚に向かうと、マフラーをぐるりと巻いた睦美先輩が笑顔でひらひらと手を振っている。
睦美先輩は今日もすごく可愛い。
「呼んでおいてお待たせしてすみません」
駆け寄ってそう言うと、先輩は首を横に振って、温かいココアのペットボトルをくれた。
「冷えたらいけないから、これ、奢りー」
「いいんですか?」
「もちろん! 私、奈瑠ちゃんには、色々お返ししないといけないから……」
お返しをしてもらうようなこと、何もないと思うんだけど……「そうだ」と私は持ってきていたお守りを先輩に渡す。
「これ、受験のお守りになったらいいなと思って作りました」
「わぁ! 可愛い! 奈瑠ちゃんが作ったの?」
「はい、一応手芸部に入っていて……」
私の手渡したお守りを睦美先輩は嬉しそうに受け取ってくれた。そのまま持っていたポーチのファスナーに付けてくれる。メイクポーチかな……持ち歩いてるなんてやっぱり女子力高いなぁ。
「私去年の文化祭、手芸部でアクセサリー買ったよ~すごく可愛かったから! このお守りも大切にするね」
「ありがとうございます」
「でもね」と先輩は優雅にウインクをして人差し指を口元にあてる。その可愛い仕草に、思わず頬が熱くなってしまう。睦美先輩は、本当に素敵だ。
「みんなのモチベーション下げちゃいけないから内緒なんだけど、高校の推薦もらったんだ。だから受験は終わり」
「すごいです! さすが先輩! お守りなんか必要なかったですね」
先輩は首を横に振った。
「ううん、必要だよ! 高校生活が上手くいきますようにって。私、広樹君や九条君とは違う学校に行くから……」
九条君――? りんちゃんのこと、名前で呼ばないの? 私に気を使ってくれてるのかな……まさかね。
「そう、なんですか?」
「うん、生徒会に入っていたのも、内申点が良くなるしっていう理由だし。でも楽しかったよ、一年間本当にありがとう」
「お礼を言うのは私の方です、私もすごく楽しかった。睦美先輩から色々教えてもらいました!」
睦美先輩は泣きそうな顔になる。それから小さな声で「ごめんね」ってつぶやいた。
睦美先輩はホットココアを口に運ぶ。視線の先には葉の落ちた藤の木が屋根のように編みこまれていて、うすら寒い感じがした。
「私ね、一年生の時から九条君のことがずっと好きだったの」
唐突に切り出された告白に、頭の中が真っ白になった。なんて答えたらいいかわからない。私が何も言えないでいると、睦美先輩は「ふふ」って笑みを漏らした。なんだか、悲しい音がする――。
「でも、振られちゃった。何度も告白したのに。全然ダメ――」
「嘘! りんちゃん睦美先輩のことが好きだって――!」
思わずそう言ってしまってから慌てて口をつむぐ。しまった――盗み聞きしてしまったことがバレてしまった。睦美先輩は大きな瞳を更に見開く。もう、言い逃れはできない。私は申し訳ない気持ちで頭を下げる。
「すみません、あの、体育祭の後に二人が話をしているのを聞いちゃって……あのとき、りんちゃんは睦美先輩のことが好きだって言ってましたよね?」
すると、先輩は思い出したように「あー」と息を吐きだした。吐いた息が白く染まって、空に溶ける。
何かに、納得したような声だと思った。
「奈瑠ちゃん、そのあとの言葉は聞いてた?」
私は首を横に振る。思わず逃げ出してしまったのだ。ショックだったのだと思う。
「私のことは好きだって。でもそれは友達としてで、付き合うとか考えられないってバッサリ。他に好きな子がいるんだって」
「りんちゃんにですか?」
「うん」
知らなかった――りんちゃんの好きな人……睦美先輩じゃないなんて、そうしたらいったい誰なの?
睦美先輩の頬から、綺麗な雫が落ちる。私は心が震えるような気がした。睦美先輩の苦しみが、私の心に共鳴する――。
私は、ずっと勘違いをしていたのだ。先輩は、ずっとりんちゃんに片思いをしていた。叶わない恋を……私と一緒だ。
「私――」
「ごめんね、奈瑠ちゃん。私、あなたに意地悪したかも。九条君のことわざと名前で呼んでみたり、デートみたいにしたくて生徒会の買い出しに九条君一人だけを誘ってみたり。あぁ、性格悪いな私」
「そんなことありません、私、ずっとりんちゃんと睦美先輩が付き合ってるんだって思っていました。それが、なんでか苦しくて、悲しくて……どうして祝福でいないんだろうって……私、本当に嫌な奴だなって……私の方が性格悪いです!」
思わずわっと泣き出してしまった。りんちゃんと睦美先輩が一緒にいるのを見るたびに、自分のことが嫌いになっていた──。
私の背中を、睦美先輩が優しくなでてくれる。「意地悪してごめんね」って。先輩は意地悪なんかじゃないですよ。憧れの睦美先輩です。
「それからもう一つ謝らせて、去年のクラスマッチのパンフレットのミス。あれ、私のせいなの」
私は去年慌てて放送をかけたり、ホワイトボードに新しい時間割を書いたりして駆け回ったことを思い出した。大変だったけど、あの失敗をリカバリーできたことで少し自信が持てたんだよね──あれも、りんちゃんのおかげだ。
「私、印刷前に時間割が間違ってるって思い込んで変えちゃったの。でもその思い込みが間違ってて大騒ぎになっちゃって、私が間違えたって言えなかったの。でも奈瑠ちゃんは悪くないのに謝ってくれて……九条君も一生懸命フォローしてて……なんか悔しくなってそのまま言い出せなかった。本当に、ごめんなさい」
頭を下げる睦美先輩に、私は慌ててぶんぶんと首を振る。
「気にしないでください、誰のせいとかじゃなくて、クラスマッチが無事にできたことが重要だと思うんです。トラブルがあってもどうにか乗り越えることができたから後々の自信になったというか……やはりパンフレットは私の仕事だったので、私の責任というか……」
上手に言葉が出てこない。なんで、こうなんだろう。私――思わず自己嫌悪に陥ってしまうけれど、睦美先輩は優しく微笑んだ。
「本当に、嫉妬しちゃうよ。どうしてそんなふうに思えるんだろう。私って本当にダメだ。九条君に振られて当たり前」
睦美先輩は私の方が嫉妬しちゃうような綺麗な笑顔で笑った。その瞳に、宝石みたいな涙が浮かぶ。
「先輩はダメなんかじゃないですよ! 睦美先輩は、私の憧れです」
「本当?」
「本当です!」
思わず力説すると、睦美先輩は私と顔を見合わせて笑った。こうやって、睦美先輩とたくさんお話ししたかったかも――もっともっと。
お守りの他に、バレンタインのチョコレートとりんちゃんの誕生日プレゼント。用意したいものがたくさんある。誕生日プレゼント、何をあげようかな……
睦美先輩と話した日から私はりんちゃんへのプレゼントを本格的に考え始めた。
生徒会室で唸っていると、一年生の子が「どうしたんですか」って声をかけてくれる。
「大切な人に贈る贈り物って何がいいかな?」
「それって、彼氏さんですか?」
ちょっと頬を赤らめながらそんな風に聞き返してくるものだから、私は慌てて両手を振る。きっと、私の顔の方が赤いよ。
「違う違う、そんなんじゃないんだけど、ちょっと気になる人というか……好きな人、というか……片思いというか……」
もう、何も知らない後輩相手に何を言っているのか……私が頭を抱えていると、その子はうーんと真剣に考えるような表情になってくれる。
「ハンドメイドがいいんじゃないですか? 私、先輩が作ったアクサセリー買っちゃいました! お気に入りです」
「わぁありがとう」
「心がこもったものなら、嬉しいと思います」
「でもなぁ、手作りって重くないかなぁ……」
いや、手作りのお守りの時点で重いかな……でもお守りは三次先輩と睦美先輩とお揃いだし……。
なんだか、頭が混乱してきた。
「絶対喜んでくれますよ~」
笑顔で言ってくれるけど、果たして凛ちゃんは私が作った何かを喜んでくれるだろうか――。
あげるなら、ネックフォーマーがいいな。作りたいかも――でも、重くないかな――まぁ、いらなかったらいらないって言われるよね、りんちゃんだし。
悩みながら、休みの日に手芸屋さんで毛糸を探すことにした。凛ちゃんに似合う色、何色だろう――って思いながら、チョコレート色の毛糸をかごに入れる、模様用にミントブルーの毛糸も買ことに決めた。これ、自分が好きな色じゃん。
「奈瑠と九条先輩ってさ、ミントとチョコレートみたいじゃない?」
一緒に買い物に来ていた里桜ちゃんが毛糸を選びながらそんなことを言う。
「ミントとチョコレート?」
「そ、九条先輩って辛口でミントみたいじゃない? それで、人に甘い奈瑠がチョコレート。二人合わせてチョコミントだよ。相性抜群、奈瑠、頑張りなね」
「ないないない! なにそれ」
「お似合いってことだよ」
「でも、りんちゃんには好きな人がいるって聞いたし……」
里桜ちゃんの言葉に思わず頬が熱くなる。私は手に取ったチョコミントカラーの毛糸を見つめた。りんちゃんは、受け取ってくれるだろうか──
でもりんちゃんには、好きな人がいるんだよね――誰だろ。
良いんだ、もしもバレンタインにブラウニーを受け取ってもらえなかったら、渡すのをやめよう。そうしたら、自分で付けるの。
その日までは、りんちゃんのことを好きでいても赦されるから――りんちゃんを想って糸を編もう。
あなたのことが好きですって、思いながら――
糸を編んでいるうちに、あっという間にバレンタインが来た。チョコレートとお守り、まだりんちゃんに渡せてないんだよね。どうやって渡そう──
三年生は、授業が少なくてあんまり学校にいないし、何より受験のせいでピリピリしていて教室に近づけない。
お隣さんなんだからピンポーンってインターフォン押しちゃえばいいんだけど、なんか恥ずかしいんだよね。
「あ……」
隣にいるのにすごく遠い――りんちゃんのことが好きだって自覚してからというもの、ますます遠くなった気がするよ。
ベランダに出た私は星空を見ながら思わずため息。冬の空って好き。冷たい空気はいつもよりも澄んでいるような気がする。なにより星がとっても綺麗――。
「おい、なにため息吐いてんだよ。風邪ひくぞ」
「きゃあ!」
突然横から声がして、私の心臓は確実に一瞬止まった。小さな悲鳴を上げてからお隣を見ると、凛ちゃんが仕切りを完全に取り払っている。
「ちょ、怒られるよ!」
「どうせ壊れてんだから。心配すんな、ちゃんと元に戻せる」
「そうなの……?」
久しぶりにりんちゃんと話しをする気がする。ドキドキ、ドキドキって心臓がうるさいくらいに鳴る。このままじゃ死んじゃいそうだ。
「あ、あの……あのね、ちょっと待ってて!」
ドキドキしている場合ではない。私は昨日の夜に焼いたブラウニーとチョコミントカラーのお守りを部屋に取りに帰る。渡すなら、今しかない。
「りんちゃん、これ、もらってください」
「なにそれ」
「ブラウニーだよ! バレンタインのチョコレート」
そう言って差し出すと、りんちゃんはちょっとびっくりしたような顔になってからぷいっとそっぽを向いた。
「義理チョコどーも」
そっぽを向いたまま片手を伸ばして受け取ろうとするので、私は包みを引っ込める。顔が熱い――。
「あげない!」
「なんでだよ」
「だって義理チョコじゃないもん。本命だから! 私の気持ちだから……だから、そんなふうに受け取って欲しくないし。いらないなら断って欲しい」
「な……」
りんちゃんが驚いた顔で私を見る。薄暗いけど、部屋から漏れる明かりだけでもわかるくらい真っ赤だ。
「なんだよその不意打ち……こんな時期に……」
「やっぱり迷惑……だよね」
体の力が抜けていく。三次先輩、ダメでしたよ――視線をミントブルーの包みに落とす。ごめんね、君は今年も私のお腹の中に入っちゃうみたい。
「あぁ、迷惑だよ。なんだよ、受験前だっていうのに……今まで気づきもしなかったくせに。のんきに広樹のことが好きだなんて言ってたくせに。今そんなこと言われたら、気になって勉強に身が入らなくなるだろうが……」
「ごめん……」
左手で顔を押えたりんちゃんは大きくため息を吐いた。私はこの場から逃げ出したくなる。渡さなければ良かった――本命だなんて、言わなければ良かった……。また、りんちゃんを困らせてしまった――いっつもそうだ。私、凛ちゃんに迷惑しかかけてないよ……。
「いる」
「え?」
反射的に顔を上げて凛ちゃんの表情を見る。暗闇でもわかる。トマトみたいに真っ赤な顔――。
「だから、いるって言ってんだよ。その包み、断るわけねぇだろうが……」
「ほ、本当!」
りんちゃんは小さくうなずく。
「で、でも、凛ちゃんには好きな人がいるって、睦美先輩が……」
そうつぶやくと、りんちゃんはきまり悪そうな顔をした。
「梶原のやつ余計なこと言いやがって……包みは受け取るけど、話しは受験終わってだから」
「話しって……?」
「おまえが俺のことどう思ってるかとか、俺がおまえのことどう思ってるかってことだよ」
「え!」
一気に夏になっちゃったんじゃないかなって思うくらい体が熱い。コート、要らないかも。
「そんなこと、教えてくれるの?」
「なに言ってんだよ……当たり前だろうが。そもそもおまえもなんにも言ってないだろ」
「言ったよ! 私はりんちゃんのことが──」
大きな手が、私の口を覆ってしまう。
「それ、今言うの反則だから」
全身がお風呂上がりみたいに熱い。マラソンの授業のあとみたいにドキドキして心臓が壊れちゃいそうだよ。
りんちゃんは私の本命チョコレートを受け取ってくれた。それって、それって……期待しても良いのかな?
「あとこれ、お守り作りました! 三次先輩と睦美先輩とお揃いだよ~ここの刺繍だけ違うの」
「おい、なんで俺だけにじゃないんだよ」
「だってみんなに志望校に受かってほしいもん」
りんちゃんは「おまえな……」って盛大にため息を吐いてから、私のお守りを受け取ってくれる。
「おまえ勉強そんなにできないし、効果無さそうだけどもらってやる。落ちたらこれのせいにするからな」
「え! それは自己責任だよ!」
反論すると、りんちゃんは、おかしそうに笑って私のおでこを小突いてきた。
「落ちるかよ、バーカ」
にっていたずらっぽく笑う。りんちゃんは、チョコミントみたいだ。ミントみたいにちょっと辛くて、時々チョコレートみたいに甘い。私の大好きなもの。大好きな人。やっと、気がついた。やっと素直になれた。
「あとさ」
りんちゃんは、ベランダの柵に両手をついて星空を見る。
「誕生日プレゼントとか、用意しなくていいから」
「わ! 出た俺様りんちゃん! 貰える前提だ!」
「なんだよそのセンスのないネーミングは……どうせおまえ、用意するつもりで悩んでるだろ?」
うぐぅ。図星だ。どうして私の考えてることが読めちゃうの?
「でも、用意したいよ。りんちゃんの十五歳の誕生日、お祝いしたいもん」
「別に祝ってもらわねぇなんて言ってねぇだろ。受験終わってから貰うから今月は祝わなくていい」
それって、来月受け取るから用意しとけってこと? 用意しなくていいわけじゃないじゃない。手編みのネックウォーマー、渡してもいいのかな……? 受け取って、くれるかな?
悩んでいると、りんちゃんが頭にポンって手をのせてくる。
「そんな難しく考えんなよ。どうしてもなにかくれるっていうなら、歌でも歌ってくれ。俺が作った歌をさ」
「え? そんなことでいいの? うるさくない? 気が散りそう……」
「いい、おまえが隣にいるなって思ったら頑張れるから」
どうしてそんな嬉しすぎること言うんだよう。バクバク、バクバク、心臓がうるさいよ──
「奈瑠」
「は、はい!」
心臓の音に混じって、りんちゃんの声が聞こえた。反射的に返事をすると、りんちゃんが笑う。どうしよう、りんちゃんの表情がめっちゃ優しい―─この表情、ずっと好きだった。
「これ、ありがとうな。早く寝ろよ、おやすみ」
「うん、おやすみ。あ、りんちゃん!」
仕切りを直して、部屋に戻ろうとするりんちゃんを呼び止める。仕切りをちょっと押し上げて覗くと、振り向いているりんちゃんと目が合った。
「ん?」
「あ、あのね、チョコレート、貰ってくれてありがとう」
面食らったように目を見開いてから、にって照れたように口角を持ち上げて笑ってから、りんちゃんはお部屋の中に戻っていった。
どうしよう、ドキドキして眠れそうにないよ──
部屋に戻った私はドキドキと早鐘を打つ心臓の音を聞きながらベッドの上で丸まっていた。
私はというと、手芸部の部室でチクチクと縫物。大好きなミントブルーとチョコレート色の布を縫い合わせていく。真ん中には赤い糸で必勝祈願って刺繍を入れる。
「それ、お守り? 三つも作ってどうするの?」
里桜ちゃんが不思議そうな顔をして尋ねてくる。
「生徒会の三年生に受験のお守りを作ってるんだよ~ 犬の刺繍が三次先輩、猫の刺繍が睦美先輩、それから、狼がりんちゃん」
「あはは、っポイね! 三人とも喜んでくれるよ~」
睦美先輩とりんちゃんを見るのは辛いけど、好きな気持ちは変わらない。睦美先輩は大好きな先輩だから……。
「でーきた! つけやすいようにキーホルダーにしてみたー」
「わぁ可愛い! 欲しいなぁー」
「私たちの受験までに光と里桜ちゃんと私の三人分作ってお揃いにしよう~」
「めっちゃ嬉しい!」
里桜ちゃんが嬉しそうに笑ってくれるのが嬉しい。
「ねぇねぇ今年のチョコレート何がいい?」
里桜ちゃんが視線を落したまま尋ねてきた。可愛い猫のぬいぐるみが、里桜ちゃんの手の中で形になっていく。里桜ちゃんの好きな淡い紫のチェック柄。
「私は生チョコレートに挑戦しようって思ってるんだ~」
「美味しそう! 私何にしようかなぁ……」
りんちゃんにはブラウニーを作ってあげるつもりでいる。受け取ってもらえないかもしれないけど――去年、約束したから。
ねぇりんちゃん、私との約束覚えてる? もう、忘れちゃったかな──。
もう、どうでも良くなっちゃったかもしれない。
みんなには他のものにしたい。りんちゃんだけを、特別にしたい。私の心の中だけでいいから。
お守りを渡したくて睦美先輩に連絡をしたら、「寒いけど藤棚でもいい?」って返事が来た。コートをしっかりと着て藤棚に向かうと、マフラーをぐるりと巻いた睦美先輩が笑顔でひらひらと手を振っている。
睦美先輩は今日もすごく可愛い。
「呼んでおいてお待たせしてすみません」
駆け寄ってそう言うと、先輩は首を横に振って、温かいココアのペットボトルをくれた。
「冷えたらいけないから、これ、奢りー」
「いいんですか?」
「もちろん! 私、奈瑠ちゃんには、色々お返ししないといけないから……」
お返しをしてもらうようなこと、何もないと思うんだけど……「そうだ」と私は持ってきていたお守りを先輩に渡す。
「これ、受験のお守りになったらいいなと思って作りました」
「わぁ! 可愛い! 奈瑠ちゃんが作ったの?」
「はい、一応手芸部に入っていて……」
私の手渡したお守りを睦美先輩は嬉しそうに受け取ってくれた。そのまま持っていたポーチのファスナーに付けてくれる。メイクポーチかな……持ち歩いてるなんてやっぱり女子力高いなぁ。
「私去年の文化祭、手芸部でアクセサリー買ったよ~すごく可愛かったから! このお守りも大切にするね」
「ありがとうございます」
「でもね」と先輩は優雅にウインクをして人差し指を口元にあてる。その可愛い仕草に、思わず頬が熱くなってしまう。睦美先輩は、本当に素敵だ。
「みんなのモチベーション下げちゃいけないから内緒なんだけど、高校の推薦もらったんだ。だから受験は終わり」
「すごいです! さすが先輩! お守りなんか必要なかったですね」
先輩は首を横に振った。
「ううん、必要だよ! 高校生活が上手くいきますようにって。私、広樹君や九条君とは違う学校に行くから……」
九条君――? りんちゃんのこと、名前で呼ばないの? 私に気を使ってくれてるのかな……まさかね。
「そう、なんですか?」
「うん、生徒会に入っていたのも、内申点が良くなるしっていう理由だし。でも楽しかったよ、一年間本当にありがとう」
「お礼を言うのは私の方です、私もすごく楽しかった。睦美先輩から色々教えてもらいました!」
睦美先輩は泣きそうな顔になる。それから小さな声で「ごめんね」ってつぶやいた。
睦美先輩はホットココアを口に運ぶ。視線の先には葉の落ちた藤の木が屋根のように編みこまれていて、うすら寒い感じがした。
「私ね、一年生の時から九条君のことがずっと好きだったの」
唐突に切り出された告白に、頭の中が真っ白になった。なんて答えたらいいかわからない。私が何も言えないでいると、睦美先輩は「ふふ」って笑みを漏らした。なんだか、悲しい音がする――。
「でも、振られちゃった。何度も告白したのに。全然ダメ――」
「嘘! りんちゃん睦美先輩のことが好きだって――!」
思わずそう言ってしまってから慌てて口をつむぐ。しまった――盗み聞きしてしまったことがバレてしまった。睦美先輩は大きな瞳を更に見開く。もう、言い逃れはできない。私は申し訳ない気持ちで頭を下げる。
「すみません、あの、体育祭の後に二人が話をしているのを聞いちゃって……あのとき、りんちゃんは睦美先輩のことが好きだって言ってましたよね?」
すると、先輩は思い出したように「あー」と息を吐きだした。吐いた息が白く染まって、空に溶ける。
何かに、納得したような声だと思った。
「奈瑠ちゃん、そのあとの言葉は聞いてた?」
私は首を横に振る。思わず逃げ出してしまったのだ。ショックだったのだと思う。
「私のことは好きだって。でもそれは友達としてで、付き合うとか考えられないってバッサリ。他に好きな子がいるんだって」
「りんちゃんにですか?」
「うん」
知らなかった――りんちゃんの好きな人……睦美先輩じゃないなんて、そうしたらいったい誰なの?
睦美先輩の頬から、綺麗な雫が落ちる。私は心が震えるような気がした。睦美先輩の苦しみが、私の心に共鳴する――。
私は、ずっと勘違いをしていたのだ。先輩は、ずっとりんちゃんに片思いをしていた。叶わない恋を……私と一緒だ。
「私――」
「ごめんね、奈瑠ちゃん。私、あなたに意地悪したかも。九条君のことわざと名前で呼んでみたり、デートみたいにしたくて生徒会の買い出しに九条君一人だけを誘ってみたり。あぁ、性格悪いな私」
「そんなことありません、私、ずっとりんちゃんと睦美先輩が付き合ってるんだって思っていました。それが、なんでか苦しくて、悲しくて……どうして祝福でいないんだろうって……私、本当に嫌な奴だなって……私の方が性格悪いです!」
思わずわっと泣き出してしまった。りんちゃんと睦美先輩が一緒にいるのを見るたびに、自分のことが嫌いになっていた──。
私の背中を、睦美先輩が優しくなでてくれる。「意地悪してごめんね」って。先輩は意地悪なんかじゃないですよ。憧れの睦美先輩です。
「それからもう一つ謝らせて、去年のクラスマッチのパンフレットのミス。あれ、私のせいなの」
私は去年慌てて放送をかけたり、ホワイトボードに新しい時間割を書いたりして駆け回ったことを思い出した。大変だったけど、あの失敗をリカバリーできたことで少し自信が持てたんだよね──あれも、りんちゃんのおかげだ。
「私、印刷前に時間割が間違ってるって思い込んで変えちゃったの。でもその思い込みが間違ってて大騒ぎになっちゃって、私が間違えたって言えなかったの。でも奈瑠ちゃんは悪くないのに謝ってくれて……九条君も一生懸命フォローしてて……なんか悔しくなってそのまま言い出せなかった。本当に、ごめんなさい」
頭を下げる睦美先輩に、私は慌ててぶんぶんと首を振る。
「気にしないでください、誰のせいとかじゃなくて、クラスマッチが無事にできたことが重要だと思うんです。トラブルがあってもどうにか乗り越えることができたから後々の自信になったというか……やはりパンフレットは私の仕事だったので、私の責任というか……」
上手に言葉が出てこない。なんで、こうなんだろう。私――思わず自己嫌悪に陥ってしまうけれど、睦美先輩は優しく微笑んだ。
「本当に、嫉妬しちゃうよ。どうしてそんなふうに思えるんだろう。私って本当にダメだ。九条君に振られて当たり前」
睦美先輩は私の方が嫉妬しちゃうような綺麗な笑顔で笑った。その瞳に、宝石みたいな涙が浮かぶ。
「先輩はダメなんかじゃないですよ! 睦美先輩は、私の憧れです」
「本当?」
「本当です!」
思わず力説すると、睦美先輩は私と顔を見合わせて笑った。こうやって、睦美先輩とたくさんお話ししたかったかも――もっともっと。
お守りの他に、バレンタインのチョコレートとりんちゃんの誕生日プレゼント。用意したいものがたくさんある。誕生日プレゼント、何をあげようかな……
睦美先輩と話した日から私はりんちゃんへのプレゼントを本格的に考え始めた。
生徒会室で唸っていると、一年生の子が「どうしたんですか」って声をかけてくれる。
「大切な人に贈る贈り物って何がいいかな?」
「それって、彼氏さんですか?」
ちょっと頬を赤らめながらそんな風に聞き返してくるものだから、私は慌てて両手を振る。きっと、私の顔の方が赤いよ。
「違う違う、そんなんじゃないんだけど、ちょっと気になる人というか……好きな人、というか……片思いというか……」
もう、何も知らない後輩相手に何を言っているのか……私が頭を抱えていると、その子はうーんと真剣に考えるような表情になってくれる。
「ハンドメイドがいいんじゃないですか? 私、先輩が作ったアクサセリー買っちゃいました! お気に入りです」
「わぁありがとう」
「心がこもったものなら、嬉しいと思います」
「でもなぁ、手作りって重くないかなぁ……」
いや、手作りのお守りの時点で重いかな……でもお守りは三次先輩と睦美先輩とお揃いだし……。
なんだか、頭が混乱してきた。
「絶対喜んでくれますよ~」
笑顔で言ってくれるけど、果たして凛ちゃんは私が作った何かを喜んでくれるだろうか――。
あげるなら、ネックフォーマーがいいな。作りたいかも――でも、重くないかな――まぁ、いらなかったらいらないって言われるよね、りんちゃんだし。
悩みながら、休みの日に手芸屋さんで毛糸を探すことにした。凛ちゃんに似合う色、何色だろう――って思いながら、チョコレート色の毛糸をかごに入れる、模様用にミントブルーの毛糸も買ことに決めた。これ、自分が好きな色じゃん。
「奈瑠と九条先輩ってさ、ミントとチョコレートみたいじゃない?」
一緒に買い物に来ていた里桜ちゃんが毛糸を選びながらそんなことを言う。
「ミントとチョコレート?」
「そ、九条先輩って辛口でミントみたいじゃない? それで、人に甘い奈瑠がチョコレート。二人合わせてチョコミントだよ。相性抜群、奈瑠、頑張りなね」
「ないないない! なにそれ」
「お似合いってことだよ」
「でも、りんちゃんには好きな人がいるって聞いたし……」
里桜ちゃんの言葉に思わず頬が熱くなる。私は手に取ったチョコミントカラーの毛糸を見つめた。りんちゃんは、受け取ってくれるだろうか──
でもりんちゃんには、好きな人がいるんだよね――誰だろ。
良いんだ、もしもバレンタインにブラウニーを受け取ってもらえなかったら、渡すのをやめよう。そうしたら、自分で付けるの。
その日までは、りんちゃんのことを好きでいても赦されるから――りんちゃんを想って糸を編もう。
あなたのことが好きですって、思いながら――
糸を編んでいるうちに、あっという間にバレンタインが来た。チョコレートとお守り、まだりんちゃんに渡せてないんだよね。どうやって渡そう──
三年生は、授業が少なくてあんまり学校にいないし、何より受験のせいでピリピリしていて教室に近づけない。
お隣さんなんだからピンポーンってインターフォン押しちゃえばいいんだけど、なんか恥ずかしいんだよね。
「あ……」
隣にいるのにすごく遠い――りんちゃんのことが好きだって自覚してからというもの、ますます遠くなった気がするよ。
ベランダに出た私は星空を見ながら思わずため息。冬の空って好き。冷たい空気はいつもよりも澄んでいるような気がする。なにより星がとっても綺麗――。
「おい、なにため息吐いてんだよ。風邪ひくぞ」
「きゃあ!」
突然横から声がして、私の心臓は確実に一瞬止まった。小さな悲鳴を上げてからお隣を見ると、凛ちゃんが仕切りを完全に取り払っている。
「ちょ、怒られるよ!」
「どうせ壊れてんだから。心配すんな、ちゃんと元に戻せる」
「そうなの……?」
久しぶりにりんちゃんと話しをする気がする。ドキドキ、ドキドキって心臓がうるさいくらいに鳴る。このままじゃ死んじゃいそうだ。
「あ、あの……あのね、ちょっと待ってて!」
ドキドキしている場合ではない。私は昨日の夜に焼いたブラウニーとチョコミントカラーのお守りを部屋に取りに帰る。渡すなら、今しかない。
「りんちゃん、これ、もらってください」
「なにそれ」
「ブラウニーだよ! バレンタインのチョコレート」
そう言って差し出すと、りんちゃんはちょっとびっくりしたような顔になってからぷいっとそっぽを向いた。
「義理チョコどーも」
そっぽを向いたまま片手を伸ばして受け取ろうとするので、私は包みを引っ込める。顔が熱い――。
「あげない!」
「なんでだよ」
「だって義理チョコじゃないもん。本命だから! 私の気持ちだから……だから、そんなふうに受け取って欲しくないし。いらないなら断って欲しい」
「な……」
りんちゃんが驚いた顔で私を見る。薄暗いけど、部屋から漏れる明かりだけでもわかるくらい真っ赤だ。
「なんだよその不意打ち……こんな時期に……」
「やっぱり迷惑……だよね」
体の力が抜けていく。三次先輩、ダメでしたよ――視線をミントブルーの包みに落とす。ごめんね、君は今年も私のお腹の中に入っちゃうみたい。
「あぁ、迷惑だよ。なんだよ、受験前だっていうのに……今まで気づきもしなかったくせに。のんきに広樹のことが好きだなんて言ってたくせに。今そんなこと言われたら、気になって勉強に身が入らなくなるだろうが……」
「ごめん……」
左手で顔を押えたりんちゃんは大きくため息を吐いた。私はこの場から逃げ出したくなる。渡さなければ良かった――本命だなんて、言わなければ良かった……。また、りんちゃんを困らせてしまった――いっつもそうだ。私、凛ちゃんに迷惑しかかけてないよ……。
「いる」
「え?」
反射的に顔を上げて凛ちゃんの表情を見る。暗闇でもわかる。トマトみたいに真っ赤な顔――。
「だから、いるって言ってんだよ。その包み、断るわけねぇだろうが……」
「ほ、本当!」
りんちゃんは小さくうなずく。
「で、でも、凛ちゃんには好きな人がいるって、睦美先輩が……」
そうつぶやくと、りんちゃんはきまり悪そうな顔をした。
「梶原のやつ余計なこと言いやがって……包みは受け取るけど、話しは受験終わってだから」
「話しって……?」
「おまえが俺のことどう思ってるかとか、俺がおまえのことどう思ってるかってことだよ」
「え!」
一気に夏になっちゃったんじゃないかなって思うくらい体が熱い。コート、要らないかも。
「そんなこと、教えてくれるの?」
「なに言ってんだよ……当たり前だろうが。そもそもおまえもなんにも言ってないだろ」
「言ったよ! 私はりんちゃんのことが──」
大きな手が、私の口を覆ってしまう。
「それ、今言うの反則だから」
全身がお風呂上がりみたいに熱い。マラソンの授業のあとみたいにドキドキして心臓が壊れちゃいそうだよ。
りんちゃんは私の本命チョコレートを受け取ってくれた。それって、それって……期待しても良いのかな?
「あとこれ、お守り作りました! 三次先輩と睦美先輩とお揃いだよ~ここの刺繍だけ違うの」
「おい、なんで俺だけにじゃないんだよ」
「だってみんなに志望校に受かってほしいもん」
りんちゃんは「おまえな……」って盛大にため息を吐いてから、私のお守りを受け取ってくれる。
「おまえ勉強そんなにできないし、効果無さそうだけどもらってやる。落ちたらこれのせいにするからな」
「え! それは自己責任だよ!」
反論すると、りんちゃんは、おかしそうに笑って私のおでこを小突いてきた。
「落ちるかよ、バーカ」
にっていたずらっぽく笑う。りんちゃんは、チョコミントみたいだ。ミントみたいにちょっと辛くて、時々チョコレートみたいに甘い。私の大好きなもの。大好きな人。やっと、気がついた。やっと素直になれた。
「あとさ」
りんちゃんは、ベランダの柵に両手をついて星空を見る。
「誕生日プレゼントとか、用意しなくていいから」
「わ! 出た俺様りんちゃん! 貰える前提だ!」
「なんだよそのセンスのないネーミングは……どうせおまえ、用意するつもりで悩んでるだろ?」
うぐぅ。図星だ。どうして私の考えてることが読めちゃうの?
「でも、用意したいよ。りんちゃんの十五歳の誕生日、お祝いしたいもん」
「別に祝ってもらわねぇなんて言ってねぇだろ。受験終わってから貰うから今月は祝わなくていい」
それって、来月受け取るから用意しとけってこと? 用意しなくていいわけじゃないじゃない。手編みのネックウォーマー、渡してもいいのかな……? 受け取って、くれるかな?
悩んでいると、りんちゃんが頭にポンって手をのせてくる。
「そんな難しく考えんなよ。どうしてもなにかくれるっていうなら、歌でも歌ってくれ。俺が作った歌をさ」
「え? そんなことでいいの? うるさくない? 気が散りそう……」
「いい、おまえが隣にいるなって思ったら頑張れるから」
どうしてそんな嬉しすぎること言うんだよう。バクバク、バクバク、心臓がうるさいよ──
「奈瑠」
「は、はい!」
心臓の音に混じって、りんちゃんの声が聞こえた。反射的に返事をすると、りんちゃんが笑う。どうしよう、りんちゃんの表情がめっちゃ優しい―─この表情、ずっと好きだった。
「これ、ありがとうな。早く寝ろよ、おやすみ」
「うん、おやすみ。あ、りんちゃん!」
仕切りを直して、部屋に戻ろうとするりんちゃんを呼び止める。仕切りをちょっと押し上げて覗くと、振り向いているりんちゃんと目が合った。
「ん?」
「あ、あのね、チョコレート、貰ってくれてありがとう」
面食らったように目を見開いてから、にって照れたように口角を持ち上げて笑ってから、りんちゃんはお部屋の中に戻っていった。
どうしよう、ドキドキして眠れそうにないよ──
部屋に戻った私はドキドキと早鐘を打つ心臓の音を聞きながらベッドの上で丸まっていた。

