次期生徒会のための生徒総会を来週に控えた金曜日の夜、三次先輩からメッセージが送られてきた。生徒総会のことかなって思ったんだけど違う。
『山本さん、こんばんは! 急なんだけど、明日の土曜日、市民体育館で大会があるんだ。俺と凛太郎にとって中学最後の試合になるから、見に来て欲しい』
明日にそんな大事な試合が行われるなんて知らなかった。りんちゃん、レギュラーになれるかなって不安そうに言ってたレギュラーになれたのかな? 見に行きたい。私が行ってもいいのなら――!
『行きたいです!』
そう返すと、先輩からすぐに連絡がくる。
『良かった! 朝九時から試合が始まるから、間に合うように来て! 生徒証があったら二階の応援席に入れるから持って来てね』
りんちゃんがバレーボールをしてる姿って、外練の時くらいしか見たことがない。試合は初めてだ。
今日は早く寝て、明日一生懸命応援しよう! 私は慌ててベッドにもぐりこんだ。隣からも物音がしない。りんちゃんも早く眠りに就いたのかも。明日、頑張ってね、りんちゃん。
翌日、ベランダに出ると吐く息が白く染まる。隣の部屋からごそごそと音が聞こえてきた。りんちゃん、今日は早起きみたい。
私も支度をして、九時に間に合うようにバスに乗る。りんちゃんに出くわさないようにしないとって警戒していたけど、選手のりんちゃんはもっと早い便に乗ったみたい。
そういえば市民体育館って、行ったことがない。停留所に停まるたびに、同い年くらいの子たちが乗ってくる。
「奈瑠ちゃん!」
睦美先輩がバスに乗り込んできた。私は一瞬びくっと肩を震わせる。なに緊張してるの。
「おはようございます」
「おはよう! 応援に行くんでしょう? 連れの子がいなかったら一緒に見よう」
「お、お願いします」
睦美先輩も受験勉強が忙しいだろうに、りんちゃんの応援に来たんだろうな……。
「文化祭すごく良かったよ! 私も誘われてたんだけど断ったんだ。やっぱり一緒にやれば良かったなぁって後悔したよ~」
やっぱり――りんちゃんは最初に睦美先輩を誘ったのだろう。先輩が無理だったから、私に話が回ってきたのだろう。挑戦してよかったって思うけど、私は睦美先輩の代わりなんだって確信したらちょっと悲しい。
「先輩の歌、去年聞きました! すごく素敵でした」
「ありがとう~ 懐かしい! あんまり練習できなかったんだけど、楽しかったなぁ」
窓越しにドーム状の大きな建物が見えてくる。次のバス停が市民体育館前だ。
「さぁ、降りよう!」
睦美先輩と一緒にバスを降りる。体育館の中にはたくさんの生徒がいた。いろんな学校の子たちがいるみたい。
生徒証を見せて、二階席に行くと、三次先輩と凛ちゃんがいた。ユニフォーム姿、初めて見たよ、すごく格好いい。
「山本さんも来てくれてありがとう!」
「こちらこそ! 呼んでくださってありがとうございます」
三次先輩がにっこり微笑んでくれる。
「奈瑠、邪魔すんなよ」
「しません!」
りんちゃんは相変わらず。追い出されるかなって思ったけど、そこまで鬼ではない。開会式の後、そのまま試合が始まるみたいだ。私と睦美先輩は選手席のすぐ後ろに腰かける。
「凛太郎、最近調子悪くてレギュラー外されそうだったんだって」
睦美先輩も当然知ってるよね。りんちゃんから色々聞いてるんだろうなって思ったら、なんだか切なくなる。私、りんちゃんのこと、なにも知らないかも。
ホイッスルの音がして、試合が始まる。そういえば、ルールとか全然わからない。りんちゃんはコートの中にいるからレギュラーなんだろう。良かった──そう思ってホッとした。コートの中に居るりんちゃんは、すごく生き生きして見える。バレーボール好きなんだろうなって、こっちまでワクワクしてくるよ――がんばれ、りんちゃん! 応援してるよ。
「凛太郎はサーブが得意なの。最近試合での調子よくなくて、だから、セッターじゃなくて、ピンチサーバーになったらどうかって言われたらしいんだけどね」
ピンチサーバーってなんだろう……そう思っているのが顔に出ていたのだろう。睦美先輩が教えてくれる。
睦美先輩はバレーのルールにとっても詳しかった。りんちゃんから教えてもらったのかな。
「三次先輩はリベロ? じゃないんですか? 前に見たとき一人だけユニホームとか違って……」
睦美先輩は大きな瞳をパッと開いて驚いたような表情になる。
「よく見てるね、広樹君は守備が上手だから、リベロの子がお休みの時とか代わりに入ったりするらしいよ。いつもはアタッカーだよ。セッターの凛太郎と良いコンビだよ~」
「私、全然知りませんでした」
私と睦美先輩では、りんちゃんと一緒に過ごした時間が違う気がした。お隣なだけの私と、同じ学年で三年間一緒に過ごしてきた睦美先輩とじゃ、距離感が全然違う。私なんかよりも、ずっとずっと近い……。
もっとりんちゃんのことを知っておけばよかった。この気持ちに、もっと早く気が付けばよかった――。
そうしたら、睦美先輩と同じ目線でりんちゃんのことを見られたかな? ううん、そんなはずない、りんちゃんが、私のことなんか振り向くはずないよ。
「ほら、見て!」
りんちゃんが上げたボールを三次先輩が相手コートに打ち込んだ。まるで流れ落ちる滝みたいに滑らかで激しい動き――ボールは相手コートに叩き落される。
「やった! 勝ったよ!」
睦美先輩が嬉しそうに笑いながらハイタッチしてきた。そうだ、応援しなきゃ。今日は、悲しい気持ちにならないようにしよう。一生懸命応援したいから。
りんちゃんの中学最後の大会は準優勝に終わった。帰り支度を終えて、体育館の外に出たりんちゃんはすごく悔しそうな顔をして暮れていく夕日を見上げている。
三次先輩と睦美先輩と四人でバスに乗っている間、りんちゃんはずっと無言だった。
同じ停留所でバスを降りてマンションに戻る。とぼとぼと歩いていると、りんちゃんは突然立ち止まった。私もつられて立ち止まる。
「どうしたの?」って聞こうとしたら、りんちゃんが珍しく弱音を吐いた。
「格好悪いな」
「そんなことないよ、今日のりんちゃん、めっちゃ格好良かったよ!」
両手でガッツポーズを作りながら私は力説。コートの中で一生懸命プレーするりんちゃんは、本当に格好良かった。
「いや、格好悪い。優勝したかった」
空を見上げて今にも泣きそうな顔をする。こんなりんちゃん、初めて見た。
なんて、言葉をかけたらいいんだろう。睦美先輩なら、なんて言ってあげられるんだろう。わからないよ……だって、私は睦先輩じゃあないんだから。私は、私でしかないから……。
「なんでおまえが泣くんだよ。気持ち悪いな」
「もう、りんちゃんの代わりに泣いてあげてるのに!」
「俺、泣いたりなんかしねぇし」
違う。りんちゃんの代わりに泣いたんじゃない。悔しかったから。りんちゃんのためになんにも出来ない自分が──すごく無力で、情けなかったから。
「悪かったな。せっかくおまえが頑張って歌ったのにな」
「あれはあれだよ。気にすることじゃないし、そもそもちゃんとレギュラーだったじゃん。今日のりんちゃん、めっちゃ格好良かったし」
「今日のとか余計だし。俺、いつも格好良いだろうが」
「よく言うよ~」
知ってるよ。りんちゃんが格好いいこと。でも気がつかなかった。気がつかないふりしてた。近くにいすぎて、ちゃんと向き合うことが出来てなかったよ。
私、りんちゃんが好きだ──大好きだったんだ。でも、今更気がついたって、もう遅いよ。
『山本さん、こんばんは! 急なんだけど、明日の土曜日、市民体育館で大会があるんだ。俺と凛太郎にとって中学最後の試合になるから、見に来て欲しい』
明日にそんな大事な試合が行われるなんて知らなかった。りんちゃん、レギュラーになれるかなって不安そうに言ってたレギュラーになれたのかな? 見に行きたい。私が行ってもいいのなら――!
『行きたいです!』
そう返すと、先輩からすぐに連絡がくる。
『良かった! 朝九時から試合が始まるから、間に合うように来て! 生徒証があったら二階の応援席に入れるから持って来てね』
りんちゃんがバレーボールをしてる姿って、外練の時くらいしか見たことがない。試合は初めてだ。
今日は早く寝て、明日一生懸命応援しよう! 私は慌ててベッドにもぐりこんだ。隣からも物音がしない。りんちゃんも早く眠りに就いたのかも。明日、頑張ってね、りんちゃん。
翌日、ベランダに出ると吐く息が白く染まる。隣の部屋からごそごそと音が聞こえてきた。りんちゃん、今日は早起きみたい。
私も支度をして、九時に間に合うようにバスに乗る。りんちゃんに出くわさないようにしないとって警戒していたけど、選手のりんちゃんはもっと早い便に乗ったみたい。
そういえば市民体育館って、行ったことがない。停留所に停まるたびに、同い年くらいの子たちが乗ってくる。
「奈瑠ちゃん!」
睦美先輩がバスに乗り込んできた。私は一瞬びくっと肩を震わせる。なに緊張してるの。
「おはようございます」
「おはよう! 応援に行くんでしょう? 連れの子がいなかったら一緒に見よう」
「お、お願いします」
睦美先輩も受験勉強が忙しいだろうに、りんちゃんの応援に来たんだろうな……。
「文化祭すごく良かったよ! 私も誘われてたんだけど断ったんだ。やっぱり一緒にやれば良かったなぁって後悔したよ~」
やっぱり――りんちゃんは最初に睦美先輩を誘ったのだろう。先輩が無理だったから、私に話が回ってきたのだろう。挑戦してよかったって思うけど、私は睦美先輩の代わりなんだって確信したらちょっと悲しい。
「先輩の歌、去年聞きました! すごく素敵でした」
「ありがとう~ 懐かしい! あんまり練習できなかったんだけど、楽しかったなぁ」
窓越しにドーム状の大きな建物が見えてくる。次のバス停が市民体育館前だ。
「さぁ、降りよう!」
睦美先輩と一緒にバスを降りる。体育館の中にはたくさんの生徒がいた。いろんな学校の子たちがいるみたい。
生徒証を見せて、二階席に行くと、三次先輩と凛ちゃんがいた。ユニフォーム姿、初めて見たよ、すごく格好いい。
「山本さんも来てくれてありがとう!」
「こちらこそ! 呼んでくださってありがとうございます」
三次先輩がにっこり微笑んでくれる。
「奈瑠、邪魔すんなよ」
「しません!」
りんちゃんは相変わらず。追い出されるかなって思ったけど、そこまで鬼ではない。開会式の後、そのまま試合が始まるみたいだ。私と睦美先輩は選手席のすぐ後ろに腰かける。
「凛太郎、最近調子悪くてレギュラー外されそうだったんだって」
睦美先輩も当然知ってるよね。りんちゃんから色々聞いてるんだろうなって思ったら、なんだか切なくなる。私、りんちゃんのこと、なにも知らないかも。
ホイッスルの音がして、試合が始まる。そういえば、ルールとか全然わからない。りんちゃんはコートの中にいるからレギュラーなんだろう。良かった──そう思ってホッとした。コートの中に居るりんちゃんは、すごく生き生きして見える。バレーボール好きなんだろうなって、こっちまでワクワクしてくるよ――がんばれ、りんちゃん! 応援してるよ。
「凛太郎はサーブが得意なの。最近試合での調子よくなくて、だから、セッターじゃなくて、ピンチサーバーになったらどうかって言われたらしいんだけどね」
ピンチサーバーってなんだろう……そう思っているのが顔に出ていたのだろう。睦美先輩が教えてくれる。
睦美先輩はバレーのルールにとっても詳しかった。りんちゃんから教えてもらったのかな。
「三次先輩はリベロ? じゃないんですか? 前に見たとき一人だけユニホームとか違って……」
睦美先輩は大きな瞳をパッと開いて驚いたような表情になる。
「よく見てるね、広樹君は守備が上手だから、リベロの子がお休みの時とか代わりに入ったりするらしいよ。いつもはアタッカーだよ。セッターの凛太郎と良いコンビだよ~」
「私、全然知りませんでした」
私と睦美先輩では、りんちゃんと一緒に過ごした時間が違う気がした。お隣なだけの私と、同じ学年で三年間一緒に過ごしてきた睦美先輩とじゃ、距離感が全然違う。私なんかよりも、ずっとずっと近い……。
もっとりんちゃんのことを知っておけばよかった。この気持ちに、もっと早く気が付けばよかった――。
そうしたら、睦美先輩と同じ目線でりんちゃんのことを見られたかな? ううん、そんなはずない、りんちゃんが、私のことなんか振り向くはずないよ。
「ほら、見て!」
りんちゃんが上げたボールを三次先輩が相手コートに打ち込んだ。まるで流れ落ちる滝みたいに滑らかで激しい動き――ボールは相手コートに叩き落される。
「やった! 勝ったよ!」
睦美先輩が嬉しそうに笑いながらハイタッチしてきた。そうだ、応援しなきゃ。今日は、悲しい気持ちにならないようにしよう。一生懸命応援したいから。
りんちゃんの中学最後の大会は準優勝に終わった。帰り支度を終えて、体育館の外に出たりんちゃんはすごく悔しそうな顔をして暮れていく夕日を見上げている。
三次先輩と睦美先輩と四人でバスに乗っている間、りんちゃんはずっと無言だった。
同じ停留所でバスを降りてマンションに戻る。とぼとぼと歩いていると、りんちゃんは突然立ち止まった。私もつられて立ち止まる。
「どうしたの?」って聞こうとしたら、りんちゃんが珍しく弱音を吐いた。
「格好悪いな」
「そんなことないよ、今日のりんちゃん、めっちゃ格好良かったよ!」
両手でガッツポーズを作りながら私は力説。コートの中で一生懸命プレーするりんちゃんは、本当に格好良かった。
「いや、格好悪い。優勝したかった」
空を見上げて今にも泣きそうな顔をする。こんなりんちゃん、初めて見た。
なんて、言葉をかけたらいいんだろう。睦美先輩なら、なんて言ってあげられるんだろう。わからないよ……だって、私は睦先輩じゃあないんだから。私は、私でしかないから……。
「なんでおまえが泣くんだよ。気持ち悪いな」
「もう、りんちゃんの代わりに泣いてあげてるのに!」
「俺、泣いたりなんかしねぇし」
違う。りんちゃんの代わりに泣いたんじゃない。悔しかったから。りんちゃんのためになんにも出来ない自分が──すごく無力で、情けなかったから。
「悪かったな。せっかくおまえが頑張って歌ったのにな」
「あれはあれだよ。気にすることじゃないし、そもそもちゃんとレギュラーだったじゃん。今日のりんちゃん、めっちゃ格好良かったし」
「今日のとか余計だし。俺、いつも格好良いだろうが」
「よく言うよ~」
知ってるよ。りんちゃんが格好いいこと。でも気がつかなかった。気がつかないふりしてた。近くにいすぎて、ちゃんと向き合うことが出来てなかったよ。
私、りんちゃんが好きだ──大好きだったんだ。でも、今更気がついたって、もう遅いよ。

