ミントに焦がれるチョコレート 幼なじみは甘くない

 りんちゃんと喧嘩をしたまま、十月になった。もうすぐ誕生日。また一つ年を重ねる。十四歳って、すごく大人になったみたい。小学生のころは中学二年生ってすごく大人っぽいなって思ってたけど、今の私はどうなのかな、全然大人っぽくないよ。

 机の上で里桜ちゃんがくれた匹のうさぎと目が合ったような気がした。茶色のうさぎにチョコ、ミントブルーのうさぎにミントって名前を付けたんだよね。二匹合わせてチョコミント。

 二つに結んでいた髪の毛が伸びてきて、ポニーテールに出来るようになった。夏休みに帰ってきていたお姉ちゃんに編み方を習って、編み込みも出来るようになったから、髪の毛も去年の今頃よりは大人っぽくなったかも。里桜ちゃんからもらったチョコミントカラーのリボンを結ぶ。
 お姉ちゃんが、桜色のリップをくれたから、うすーく塗ってみる。唇が、ほんのり桜色に染まった。お正月のときはお化粧なんて似合わないって、りんちゃんに言われたからなんとなく嫌煙してたけど。これくらいなら悪くないよね。

 川沿いにすすきがさわさわと音を立てて揺れている。海みたい。空が高い。雲が鱗みたいに波打っている。もう秋だ──。

 放課後、手芸部でアクセサリー作りをしていて、一息つくと、外がすっかり暗くなりかけていることに気が付いて驚いた。
 里桜ちゃんが用事で早くに帰ってしまったので、今日は一人没頭していたのだ。
 
 正門を出る時に、誰かが居ることに気がついた。りんちゃんだ、誰かを待っているみたい。私は気が付かない振りをして通り過ぎようとしたんだけど――。

「奈瑠」

 名前を呼ばれたので仕方なく足を止める。誰を待っているんだろう。睦美先輩? 睦美先輩って、吹奏楽部だったと思うけど、吹奏楽部の部室はもう暗かったはず。

「なにシカトしようとしてんだよ」
「気が付かなかったよ」
「嘘つけ。あからさまに目ぇ反らしやがって」

 バレている。りんちゃん、意外と鋭い。

「誰か待ってるの? 睦美先輩?」
「おまえ」
「え?」
「おまえのこと待ってたんだよ」
「なんで? そもそもなんで私が残ってるってわかったの?」

 りんちゃんが盛大にため息を吐いた声が聞こえる。

「今日外練だったんだよ。手芸部の部室、遅くまで電気ついてるじゃねぇか。駐輪場におまえの自転車も残ってるし」
「それで、待っててくれたの?」
「子守りのためにな」
「そんなに子供じゃないし、もうすぐりんちゃんと同い年だし!」
「同い年っつってもほんの三、四か月じゃねぇか」

 喧嘩してたはずなのに、話し始めるといつも通りになる。りんちゃんと話したのって、一月振りくらいかも。話していると楽しいとか思っちゃう。

 毎日通る道なのに、暗いだけで少し怖い。川を流れる水の音も、垣根の茂みも、暗いだけで印象がまるで違う。でもりんちゃんがいてくれるから、すごく心強い。
 そういえば、こうやってりんちゃんと一緒に自転車をこぐのは初めてかも。

「おまえ、いつも部屋で歌ってるだろ」
「なんで知ってるの!」
「うちのマンションの壁薄いだろ、聞こえてくる」

 うっそ! マジで! 恥ずかしすぎる! 家が安息の地ではなかったことに衝撃を受けてしまった。
 
「おまえ、歌、下手じゃねぇから」
「下手だよ。小学生の時にさんざんからかわれたし。りんちゃんも文化祭の歌聞いたでしょ? 歌うの好きだけど、あがり症だし、下手の横好きだったんだって思うと恥ずかしくて歌えないよ」
「あれは緊張したからだろ。緊張しないように訓練したらちゃんと歌える」
「無理だよ……」

 隣で自転車をこぐりんちゃんが、また大きなため息を吐いた。そんなにため息吐いてたら、幸せが逃げちゃうんだから。

「やってみる前から無理とかいうな。俺と広樹が横で演奏してやっから。おまえ歌え」
「そんなに簡単に言わないでよ……」

 心の奥底の傷は、まだまだかさぶたにもならずにうずいている。心の傷は、簡単には治らないよ――。

 マンションに着いた。エレベータの中でも、何も話したくない。玄関の扉を開ける前に、りんちゃんがぼそっと何か言った。「絶対歌えよ」って言った気がするけど、よく聞こえなかった。

「りんちゃん待って! 私──」

 勝手に決めないでよ。私には無理だよ。私、睦美先輩じゃないもん。