ミントに焦がれるチョコレート 幼なじみは甘くない

 外では蝉が大合唱してる。私は里桜ちゃんと光と三人で図書館に来ていた。期末テストの勉強中なのだ。

「ねぇ、そろそろ休憩しよう」

 向かいの席に座っていた光が小声で囁いてきた。私もちょうど休憩したいなって思っていたところ。今にも頭がパンクしそうだ。

 横に座っている里桜ちゃんもうなずく。私たちは図書館から出て自販機で冷たいのみものを買って、フリースペースのソファに腰かける。

「世界史覚えられない」
「あーわかる。私、苦手なんだよ~」
「なんで? 世界史面白いじゃん」
「里桜ちゃんは優秀だから……」

 里桜ちゃんって小学生のときから勉強が良くできたけど、中学生になって更に出来るようになった。

「人の努力を優秀なんて言葉で片づけないでよ」

 里桜ちゃんがちょっと怒ったような声で言うので、私は猛反省。確かに、里桜ちゃんは人一倍頑張り屋さんなのだ。結果が付いてくるのは里桜ちゃんが努力した証拠だ。里桜ちゃんが優秀なのは、里桜ちゃんが努力しているから。

「ごめん。里桜ちゃんが優秀なのは里桜ちゃんが努力してるからだもんね。私も努力しよう……なんかいっつも途中で飽きちゃって漫画の本読んだりしちゃう」
「あはは、それ私も」
「わかればよろしいけど、試験勉強中は漫画の本はひかえなよ」

 光と私はその辺り似てるみたい。こうやって、三人で一緒に勉強して、互いに刺激し合わないと!

「そうそう、奈瑠は最近三次先輩と良い感じなんじゃない。図書室にもよく二人で来てるし?」

 里桜ちゃんが話しを振ってくるものだから、私は「そうかな?」と首を傾げた。
 三次先輩とは本の貸し借りをするようになり、話す機会がぐっと増えた。好みが似ているので一緒に図書室に本を借りに行ったことも何度かある。

「うーん、でも、良い感じっていうのとはちょっと違うかも……」

 あんなに憧れていた三次先輩なのだけれど、最近はドキドキするような気持は無くなってしまった、というのが正直な感想だ。一緒に生徒会に入って、好きな本の話をしているうちに仲良くなって、なんというか……。

「仲の良い先輩、みたいな?」
「はぁ?」

 光が呆れたような声を出す。でも、自分でもそれ以上うまく説明がつかないのだ。

「なんていうのかなぁ、初めから憧れてるだけで、好きな気持ちとはちょっと違っていているような気がしていて……」

 上手く説明が出来ない。なんて言えばいいのだろう。三次先輩は相変わらずとても素敵なんだけど、好きっていうのとは違う気がしている。どうにかこうにか説明していると、二人はなんとなく納得してくれたみたい。

「つまり、恋愛対象外ってことかな?」
「いやいや、その言い方失礼だよ。私の方が先輩の恋愛対象外だよ。なんていうのかな、憧れのアイドルがお友達になった感じ?」
「推しが友達!? なにそれ! めっちゃ最高じゃん!」

 光は興奮気味に身を乗り出してくる。里桜ちゃんは「ふーん」ってつまらなそうな声を出すけれど、こればかりは仕方がないよね。むしろ、私は三次先輩よりも、ぐっと話しかけにくくなったりんちゃんの方が気になる。

 そんなことを光と里桜ちゃんに相談しようかどうしようかもじもじしていると、鋭い里桜ちゃんが聞いてくれた。

「じゃぁ奈瑠のその悩んだ顔は誰のせい?」
「私、悩んだ顔してる?」

 首をかしげると、里桜ちゃんも光もコクコクと首を縦に振る。

「してるしてる」
「体育祭の後からおかしいっていうか」
「そうそう、だから三次先輩となんかあったんじゃないかって思ったんだよね~」
「ないない、それはない!」

 私はぶんぶんと両手を振る。すると、里桜ちゃんは「ところでさ」とちょっと確信に近いようなことを聞いてきた。

「話は変わるけど奈瑠と九条先輩って、仲いいじゃない? お互い意識したりしないの? 兄妹みたいな感じ?」

 突然りんちゃんの話になって、私はひゅぅっと小さく息を吸い込む。意識していないのかと言われたら、最近意識はしている。話しかけにくいなって――今までそんなこと一度もなかったのに、不思議だ。

「お兄ちゃんって感じはないかな、幼馴染……っていうよりりんちゃんはりんちゃん?」
「なにそれ、あのさ、私思うんだけど、実は三次先輩より九条先輩の方が奈瑠には合うんじゃないかなって思うんだよね」

 里桜ちゃんの言葉に私はぶんぶんと首を横に振る。

「ないないない、それはない! もう、近場で片づけようとしないでよ里桜ちゃん。私にだって、選ぶ権利というものが――」

 体育祭の後のりんちゃんと睦美先輩の会話が頭から離れてない。りんちゃんって意地悪だけど、顔は格好いいし、背も高いし、けっこう面倒がいいし、実は頭もいいし。睦美先輩は綺麗でスラっとしていて……とってもお似合いの二人――。

「ないない、りんちゃんはないよ。お互いに近すぎちゃってありえないよ」

 りんちゃんとの距離感を、考えないといけないのかもしれない。だって、きっとあのまま二人は付き合い始めるよね。両思いだもんね。りんちゃん、睦美先輩に「好きだ」って言ってたもんね……。
 あんまりりんちゃんに話しかけないようにしないと。そう思うと、この話しかけにくい状況は良いではないかと思う。良いことなのに……ちょっと寂しい。

 休憩をはさんだ後、もう少しだけ勉強して帰った。空に立ち上っている入道雲が、私のなかにあるもやもやみたいに見えた。