玄関に向かうべく歩いていると、小さい少年が

「ひめ~!!」

と私に抱きつ……こうとして、チトセにかかえられた。愛すべきアホの子、魔人のねるまだ。見た目も言動も13歳くらいのそれだが753歳の海神王宮最年長である。

「わああ!?何?なんですか執事長!?」

チトセはねるまを床に座らせ睨みつける。ねるまは私をチラチラ見てくるが私にチトセとめる力はない。

「これが何かわかりますか?」

チトセがねるまにブローチを見せた。ねるまはイタズラ好きだ。昨日執事長室を掃除したのはねるまだし、ねるまがイタズラで隠したと考えるのが妥当だ。普段ならここまで怒らないが大事なものだったのだろう。

「あ!そのブローチ!執事長室の掃除をしているときにほうきを引っ掛けて。棚をひっくり返しちゃって…戻したんだけど、そのブローチだけ場所がわかんなくなっちゃって、だから渡そうと思ったら無くしちゃって…。だからわざとじゃないんだよ!!」

ねるまがそういうとチトセがため息を付く。

「……なるほどそれで資料の順がめちゃくちゃになっていたんですね……」

資料がぐちゃぐちゃになっていたのを直していたらブローチがないことに気づいたらしい。

「今回はイタズラではないようなので許します。ですが棚をひっくり返したこと、ブローチを見つけてなくしたことを聞いていませんよ。なくしたのでしたらそれを報告しなさい。これを届けたのはイリスでしたよ。イリスに謝ってお礼を……」

「もういいだろ……」

チトセをとめる。ねるまが泣きそうになっているからだ。ねるまからしたら自分で直し、解決しようとしたのに叱られてわけが分らないだろう。

「ひめ〜」

さっきの響きより悲痛な声でねるまが抱きついてくる。見た目は少年だが700歳を越えた男が私に抱きついたのをチトセはまた叱ろうとしたが、私がねるまを慰めるように抱きしめ返したのを見て、止まる。

しばらく頭をなでてあげるとねるまは笑顔に戻ったのだった。