部屋に戻る途中にチトセが提案をする。

「緋女様、本日は天気が良いですし、デートは如何ですか?」

【デート】とは国の見回りのことだ。見回り、というのは堅いからと、私とチトセは昔からデートと呼んでいる。私が了承するとチトセは嬉しそうに笑い、国民の前に出るために、弟の部屋へ向かった。

弟の部屋でチトセがクローゼットを開ける。中には赤の軍服と白い羽織りが数枚かかっているだけだ。

私の弟、海神 緋色(わだつみ ひいろ)は13歳で戦死している。1歳しか違わないと言ってもまだ気弱で若い弟を私は戦場に行くよう助長してしまった。……私が殺したも同然だ。私はそう思い……それからずっと、緋色の代わりをしている。国民の前では、王女ではなく頼れるかっこいい王子でいなくてはならない。いつか緋色を殺した水の国の第1王子を殺すまで、私は王子を辞める気は無い。

チトセがクローゼットから軍服を取り出し私のドレスの背中のファスナーに手をかけたところで部屋がノックされる。

「入りなさい」

私がそう言うと、扉から淡雪 氷麗(あわゆき つらら)が顔を覗かせた。
黒いショートボブに似合うかわいい顔立ち。緑と青の美しいオッドアイ。その下には小さな泣きぼくろ。長いスカートのメイド服とフリルカチューシャ。手には手袋をしている。
……彼女は雪女だ。

元々氷の国に住んでいたが、訳あって国から追放され、行く宛もなく彷徨っているところを偶然見つけ拾ったのだ。

雪女だと知って炎の国に連れて来たのを申し訳なく思ったが当の本人は泣いて喜び、是非働かせて下さい!と志願してきたので、今は住み込みで働いている。
氷麗の部屋だけは特別仕様の冷凍室でこの気候にも慣れて来たらしい。しかしまだ気を抜くと触ったもの全てを凍らせてしまうため、手袋は必須だ。