大人しく、ピザ風トーストを食べ勧めていると廊下からドタバタと足音が聞こえ、食堂のドアが開いた。

「おはようございます、緋女様!」

「おい!離せ、蜘蛛女!」

元気に挨拶してきたのは王宮カウンセラーの蓮糸(はすいと) あむだ。紫のシュートヘアで片目は隠れている。日本国の着物を彷彿とさせる紫が基調の服もよくにあっている。可愛らしい見た目をしているが正体は女郎蜘蛛。つまりは妖怪だ。

その彼女に引っ張られるようにしてやって来たのは草ヶ谷 透李(くさがや とうり)。王宮の新人護衛騎士。人間でありながら神の加護をうけたと豪語する。確かに護衛をしているとき防御がすごく、タンク?とかいうものをやっていた時期があるらしい。

彼は美しい黒髪とその黒髪にあった美しい顔を歪ませてあむを睨んでいる。引っ張られるようにしてやってきた割にいつもの左目眼帯、右手包帯、多分赤目カラコンは装備している。…顔も声も綺麗で身長も男子にしては低めで可愛いのに厨二病…惜しい。
彼が騎士にやってきてから下町の方では彼のファンクラブまであるらしい。顔が良ければ町娘たちは性格まで気にならないということなのだろう。

『挨拶くらいしたらどうだ草ヶ谷 透李。おはよう緋女殿下』

彼の肩から私に声をかけてきたのはアパタイトブルーのカエル。フログメントだ。ここの使用人と私は皆使い魔がいるがいつも身を潜めている。いつもみんなにも見えてみんなとコミュニケーションを円滑に図ろうとするのはフログメントだけだ。

透李の厨二病セリフもいつもフログメントが翻訳してくれる。

「そうは言うがフログメント!この蜘蛛女が我の領域にいきなり侵入し、闇の扉を開けて、我に業火に焼かれし球体を突きつけてきたのだ!」

私が首をかしげるとフログメントが翻訳をする

『草ヶ谷 透李はいきなり蓮糸 あむが部屋に入ってきてカーテンを開けて朝日を浴びせて来たと言っている』

……なるほど……全く分からない。

『草ヶ谷 透李。怒ってもどうにもならないのはわかるだろう。蓮糸 あむは貴様を起こしてくれたと考えろ』

フログメントが透李を諭す。透李は少し顔に不満を滲ませたが、ため息をついた。

「フログメントに免じて今日は許してやる」

透李はあむに向かって偉そうに言うがあむはにこにこしたままだ。

「目覚めたか、炎啓を受けし我が主よ」

いつもより柔らかい呼び方をされる。いつもはもっと……紅き衣を纏いし者とか、深淵に沈みし我が同胞とか言われる。……なんか今日は機嫌がいい?さっきまで怒っていたのに?私はとりあえず3人に

「ええ、おはよう、あむ、透李、フログメント」

と挨拶した。