海神王宮の日常

向山 葉月

「では朝食に参りましょう」

チトセが私の部屋のドアを開け後ろからついてくる。食堂でまたドアを開けてくれて椅子を引いてくれる。

「ありがとう」

「滅相も御座いません」

いつもお礼をいうとこう返される。慣れてしまった。すると厨房から1人の男性が出てきて、私の顔を見てうれしそうにわらった。

「殿下！おはようございます」

彼は海神王宮のシェフ。向山 葉月(むこうやま はづき)だ。チトセの次に長く仕えている使用人で、私とはもう10年の付き合いだが、彼の中で私は始めたあった10歳のときの年齢から成長していないのか、私を心配しっぱなしだ。

葉月は厨房から引いてきたワゴンから私の前に朝食を並べる。

「お待たせ致しました、殿下。本日の朝食はチーズたっぷりのピザ風トーストとコンソメ野菜スープで御座います」

葉月が恭しく頭を下げる。……ピザ風トーストは大好きだが野菜スープがある...私は野菜が大の苦手だ。なかなか手が動かない。

「……緋女様?」

「……野菜スープ……」

「食べましょうね」

今日1冷たい声でチトセが言う。苦手だからと逃れられないのはしっていたが自分から手をつける気は起きない。

「葉月……」

葉月にも助けを求めてみるが葉月も困った様に苦笑いして、厨房に戻ってしまう。チトセのように強くは言えないが、葉月も私には栄養をとってほしいみたいだ。すると身体をひょいと持ち上げられた。

「きゃあっ……え?」

次の瞬間にはチトセの膝の上に座らされていた。

「さて、緋女様もう逃げられませんよ。はい、あーん」

チトセが腰をガッチリホールドしてスプーンを口元に持ってくる。

ふいっと顔をそむけると耳元にチトセの唇が寄り甘く囁く。

「おや?緋女様はあーんよりわたくしの口移しがご希望ですか?」

チトセが野菜スープを口に含み顔を近づけてくる。

「わかったわよ!食べる!」

そう言うとチトセはスープを飲み下し、もう一度スプーンを口元に運ぶ。私はそれを食べる。

「よくできました、緋女様。因みにそのスプーン、わたくしも頂いたので間接キスですね」

私はまた動揺させようと目論むチトセを無視する。こうして私は我慢してスープを食べきるまでチトセの膝に座らされていた。

大嫌いな野菜スープを食べきってピザ風トーストを味わう。するとチトセは厨房に入る。私が食べきったタイミングでコーヒーを出すためだ。