ねるまと別れしばらくしてから、王宮に返ってくる。お腹が空いたとチトセに伝えるとチトセは嬉しそうにわらってくれた。
チトセに連れられ、食堂に向かっていると向こう側から男性が妖しい笑みと共に近づいてきた。日本国の着物に似た物に身を包み、一見女性と見紛う程の美貌の持ち主。
彼は炎の国に食料をおろしてくれている貿易国、天の上に国を構える、ウカノミタマの天狐様、薊(あざみ)さんだ。明那さん仕入れているお酒もウカノミタマから仕入れた御魂酒が絶品で、氷麗はそれが大好きだ。

「お久しぶりです、薊さん」

「おや、久しぶりじゃの、緋女さん。今日も凛々しいのう」

彼は見た目は20代くらいの若い男性に見えるが口調はまるで老人のようだ。しかしその妖しい雰囲気からその言葉が紡がれると全く違和感がないから不思議だ。

「ふふ、ありがとうございま──」

「行きましょう、緋女様」

私が薊さんにお礼を言おうとすると珍しくチトセが私の言葉を遮った。さらに、私と薊さんの間に入って遮ってくる。

「(緋女様に近寄るな。今日は旦那様への用だろ、終わったなら帰れ)」

「なんじゃ釣れないのう、チトセ?妾はお前に逢いに──」

「(か・え・れ)」

「ふふふ、照れておるのか?愛いやつめ」

チトセが私に聞こえないくらい小声で薊さんと話し始めた。

チトセの顔は見えなかったが、薊さんが楽しそうに話し、しばらくすると時間だと言ってウカノミタマに帰って行った。チトセ何を話していたのかは分からないが楽しそうで良かった。

チトセは珍しく少し疲れた顔をして、私を食堂まで連れて行ってくれた。