「……様。緋女(ひめ)様。お目覚めの時間ですよ」

優しく囁く声に少しずつ覚醒する。私が眼を開けると私の執事、蛛藍 蜘歳(しゅらん ちとせ)が寝たときと同じ椅子に腰掛け寝たときと同じように私の手を握っていた。……と言ってもずっといたわけではなく私が起きるタイミングで握り直したのだろう。その証拠にチトセの隣には紅茶を載せたワゴンがあり、私の部屋のカーテンは空いていて朝日を取り込んでいる。
私が寝るより後に休み、私より早く起きているのにチトセの顔には疲れひとつ見えない。いつも通りシワひとつ無い燕尾服をきて真っ白な手袋をしている。白い髪も綺麗にセットされていた。

「おはようございます、緋女様」

「おはよう、チトセ」

チトセが手に少し力を込め、もう片方の手で私の身体を起こす。チトセが紅茶を入れ私に渡す。

「アールグレイのレモンティーで御座います」

私の一番好きな銘柄で一番好きな入れ方をしてくれる。そんな優秀な執事が私は大好きだ。

「ありがとう、チトセ」

今日も私の朝は蜘蛛の魔族でありながら人族に忠誠を誓う、炎の国最強とも思われる男に甘やかされて始まった。