「調子どう?」

突然後ろから声をかけられて、身体がびくっと跳ねた。

まさか誰かに話しかけられると思っていなかったから心構えが全くできていなかったし、それ以上に期待した。

待ち焦がれていた人の姿を。

弾かれたように振り向くと、そこに立っていたのは永倉くんだった。

「幽霊でも見たような顔しないでよ」

ふっと笑った彼を見て、顔は赤面しながらも心の中ではちょっとがっかりしていた。

たとえ一瞬でもどうして期待したんだろう。蓮と永倉くんの声は似ても似つかないのに。

だけどやっぱり、背格好がちょっと似ている。

「ご、ごめん。なんかあったの?」

「いや別に。調子どうかなって思っただけ」

「え? なんで?」

「なにが?」

「……なんで私に話しかけてくれるの?」

「友達に話しかけちゃダメなの?」

友達。

今まで何気なく使っていた言葉が、今はとてつもなく染みる。しかも今は涙腺が緩んでいるから、気を抜いたら泣いてしまいそうだ。

「……友達って、思ってくれてたんだ」

「美桜のことはね」

「ありがとう。嬉しい。……もう、嫌われたと思ってたから」

「嫌いじゃないよ。女子のいざこざに男が介入するのはよくないかなと思ったし、話しかけるタイミングもなかっただけ」

そうだ。永倉くんはこういう人だ。マイペースに見えて、実は周囲をよく観察してさりげなく気を配る。

そういえば、少し前にも同じようなことを思った気がする。

──お前大丈夫か?

──大丈夫だよ。永倉が心配することじゃない。

──心配するだろ。あんまり無茶すんな。

確かいつかの朝、正門の前でそんな話をしていた。

「ねえ、永倉くんって、れ──時生のことなにか知らない?」

「時生? なんで?」

永倉くんは途端に目を白黒させた。

当たり前だ。蓮と私の仲は誰も知らないのだから、驚くに決まっている。

どうして私が蓮のことを訊ねるのか理解不能だろう。

「あ、えっと……学校来てないから、ちょっと心配で。永倉くんならなにか知ってるかもって……」

「え、俺? なんで?」

「前に正門の前で話してたし、もしかして仲いいのかなって……」

あのとき、蘭音たちのことで心配しているのだと思っていた。

だけど今思えば、それにしてはいやに深刻そうな顔つきじゃなかった?

もしも違ったら?

前々から蓮の身体に異変が起きていたことを、永倉くんだけが知っていたとしたら?

「いや、あのときはほんとにたまたま会っただけで、仲いいってわけじゃ……」

永倉くんは珍しく困ったような表情で頭を掻いた。

ただ話していただけで仲がいいと勘違いされたら困るに決まっている。

いくら不安だからって、さすがにこじつけすぎだ。

「……そっか。急に変なこと訊いてごめん」

「いや、いいけど。……まあ風邪でも引いたんだろ。あんまり心配すんなよ」

「そう、だよね」

永倉くんの言う通り、ただの風邪に決まってる。

まさか大きな病気じゃないかと思ったけれど、だとしたら先生から伝達があるんじゃないだろうか。そんな話は聞いていない。

たとえ春だろうと、寒いから防寒する。蓮が考えそうなことだ。

私の思い過ごしで、きっとまた気配もなくひょっこり現れる。

だって蓮は、いつもそうだったから。