叔父があの場で“一切関わらなくていい”なんていうとは思わなかったから、泰雅が何叔父に言ったのではないかと思ったのだ。

「あぁ、ちょっとオノデラ貿易の役員不正について聞いてみただけだ」

「え、役員不正!? ……そんな話あるんですか?」
 
 思わず声が大きくなってしまったのを慌てて抑える。

「いや、企業法務の経験上、なにかしらやってそうだなと思ったから試しに『あくまで個人的に聞いた話ですが』と吹っ掛けてみた。そしたら叔父さん慌て始めてね。だから『これ以上妻を困らせるなら、色々と調べてみようと思ってしまうかもしれません』って言った」

「うわぁ」

 ようは『妻をいじめるなら、お前の会社の不正を暴いて告発するぞ』と言ったのだ。
 弁護士がカマをかけた上脅している。いいのだろうか。

(だから叔父さん、顔色悪かったんだ……心当たりがあるんだろうな)

 叔父が瑠美を止めに入ったのは、泰雅が脅迫、いや、牽制をしたからだろう。

「結局、助けられちゃったみたいですね。ありがとうございます」

「いや、普段大人しい君が仁王立ちでタンカを切る姿は見とれるくらいかっこよかった。それに“金輪際”という言葉があれほど適切に使われる場面、初めて見た」