「今日も、白石先生はお仕事なのね」
アイスコーヒーの氷をマドラーでカラカラと鳴らす純玲に母が訪ねてくる。
「うん。クライアントに会う用事があるみたいで朝から出掛けたわ」
土曜日の午後、母に相談があると呼び出され純玲は実家を訪れていた。
両親が営む喫茶店“リバティ・スノー”は文京区の北寄りに店を構えている。
1階が店舗、2、3階が自宅になっている。
繁華街からは少し離れているが、近隣の住民やサラリーマン、たまに大学生がやってくる。経営は順調と聞いている。
オノデラ貿易の社長を辞し、本家を出て喫茶店をすると決めた父を祖母は止めたそうだが、どんなに説得しても父の気持ちは変わらなかった。
息子が思い通りにならなくなった怒りの矛先は純玲に向いた。
それまでは、裏で嫌味を言うタイプだった祖母だが、人目もはばからず『お前のせいだ』『役病神』と声を上げた。今思えば、認知症が始まっていたのかもしれない。
その後祖母は入院し、2年ほどでこの世を去っている。一度もこの店に来ることもなかった。
父は店舗で接客中だが、母がアイスコーヒーとチーズケーキを持って2階のダイニングまで上がってきてくれた。
「うん、やっぱりお母さんの作るケーキは美味しいわ」



