離婚予定の契約妻ですが、クールな御曹司に溺愛されて極甘懐妊しました

 今日だって、彼がフォローしてくれたからなんとか無事に挨拶できただけだ。

 そのくせ、夫には自分だけを気に掛けて欲しいと思ってしまう。

(泰雅さんに必要なのは“妻”で、私じゃない……駄目、こんなこと考えたくないのに)

 純玲は身勝手な感情が芽生えていることに気付き戸惑っていた。

 実の親を亡くし、天涯孤独となった自分。
 施設に入るところを小野寺の両親に引き取られ、愛情をこめて育ててもらった。
 それだけで不相応なぐらい恵まれていると思い、手元にある平穏だけを大事にして多くのものを望んでこなかった。

 もちろん与えられた環境の中でそれなりの努力はしてきたが、何かに拘り過ぎないよう、執着しないようにしてきた。

 肇が瑠美と付き合っていたと知った時も、悲しみややるせなさは感じたが、嫉妬や執着心は覚えなかった。

 でも今、夫に対していびつな感情を持ち始めている。

(私たちの結婚は契約で、期限がある関係なのに……)

 湿気のようにまとわりつく重い感情を振り切りたくて、純玲は歩く速度を速めた。



 数日後、純玲は会議から戻って来た社長に「お帰りなさいませ」と声をかけつつコーヒーをお出しした。