月と桜とハイヒール


 少しずつ、無理をせずに確実に。何事もそのほうが良いに決まっている。
しかし、できることならば、踊れているという実感、何らかの成果が早く欲しかった。

(――もう少し頑張るか。とりあえず、今日はゆっくりお風呂に入ろ)

 今日は取引先からの直帰で良いということで、少し早く帰宅できる。

 芽依は紙カップとプラスチックのフタを慣れた手つきで分けて捨て、店のドアを開けた。

「ありがとうございました!」

 後ろから数人の店員の声がしたため、振り返って軽く笑顔で会釈をする。歩道へと向かいながら、トレンチコートを羽織った。ソメイヨシノが各地で満開になったと今朝のニュースで流れていたが、今日は少し冷える。

(花冷え、か――)