新しい靴を履き始めてから一週間ほど経ったが、早くも芽依はめげそうになっていた。
 新年度の忙しさ。そして、五センチヒールでの外回りで、ふくらはぎがパンパンに張っている。自分で始めたことだが、誰か助けて欲しい、と思うほど弱気になっていた。

 そんな芽依を癒やしてくれるのは、行きつけのコーヒーショップ。
外を向くようにして座るカウンターテーブルの前には、大きな桜の木が植えられている。
木の陰になるようにビルが建っており、店の存在すら知らない人もいるかもしれない。そのため、オフィス街にあるチェーン店だが、隠れ家的な店舗だ。