夜には、桜の木がライトアップされる。この席は花見をするのにも特等席だ。
ふふ、と密かな楽しみを堪能しながら、砂糖を入れるためにカップのフタを開けた。
(なんだか、いつもと違う……?)
スチームのミルクが、やけに真ん中に丸く寄っている。
こんなこともあるのか、と思いながらカップから手を離すと、いつものように文字のサービスが目に入った。
今度は何かな? と、ちょっとワクワクする。
(なんだか長い? しかも、小さな字だな……。間違ってごめんなさい、みたいな?)
文字を読み取ろうと、カップを持ち上げて顔を近づけた。
『今夜はキレイな満月ですね。』
確かに今日は満月だ。この席からも大きな月が浮かんでいるのが見える。
ふと、愛を囁く言葉に意訳する、有名なフレーズが頭に浮かんだ。
そして同時に、麗香に見せられた占いも思い出してしまった。
『運命の出会いの予感』
(いや、いや、いや。きっと、風流な人なんだよ。そうに違いない。もー、麗香。恨むからね……)
そう自分に言い聞かせながら半笑いで顔を上げると、ガラスに映った彼と目が合った。
真っ直ぐで、あまりにも真剣な瞳に驚き、思わず回転スツールで振り向く。
ガラス越しではなく直接向き合うと、彼がとろけるような瞳で微笑んだ。
「え……?」
Fin...
