支払いを終えて、「じゃあ……」と軽く会釈してから、受け渡しのカウンターで別の店員から商品を受け取った。カップに『SMILE!!』と、ニコニコマークが書かれている。
(こういう、ちょっとしたサービスに元気もらえるんだよね)
いつもの窓際の席に着こうとすると、後ろから声をかけられた。
「お客様、すみません! 商品を間違えて、お渡ししてしまったようで!」
先ほどの男性店員が、カップを乗せたトレイを持って早足で駆け寄ってきた。急いでいてもカップが揺れていない。さすがだ、なんて変なところに注目してしまった。
「え? 間違い……ですか?」
芽依はわりと鼻が利く。カップからは、ほのかにアールグレイの香りがしている。しかし、店員が間違いだというのなら、間違いなのだろう。芽依は素直に新しいカップを受け取った。
「申し訳ありませんでした」と、深く頭を下げられる。
「いえ、そんな。気にしませんので。むしろ、わざわざありがとうございます」
芽依も、ぺこっと頭を下げた。
芽依の様子を見た彼はホッとしたような顔をして、レジカウンターに戻っていった。別の男性店員が、戻った彼の背中を笑顔で何度か叩いている。
(失敗を責められてる?)
いや、違う。ミスをしたのは彼ではない。それに、やめろ、とでもいうように彼も笑っている。犬がじゃれているようだ。
仲が良いんだな、そんな姉目線で微笑ましく感じながら、外のガラスの方を向いた。
ひらり、はらりと、窓の向こうで桜の花びらが舞っている。
