レジの前でメニュー表を確認する。
ドリンクメニューはいつも決まっているが、今日は小腹が空いているため、フードメニューを選ぼうと、しばらく下を向いていた。
「いらっしゃいませ。今日は、ぺたんこ靴なんですね」
(……え?)
芽依が思わず顔を上げると、昨日、助けてくれた男性が目の前にいた――。
「えー!?」
自分でも驚くほど大きな声を出してしまった芽依は、慌てて口を手で覆い、周囲の客に頭を下げた。
(何で、気付かなかったの……)
確かに、この店の店員は男女ともに、顔面偏差値が高いとは常々思っていた。しかも、この男性店員に当たることは、よくあったのに。制服やエプロン姿ではない外で会うと、こんなにも気付かないものなのか……。
「き、昨日はありがとうございました。とても、助かりました。一人では、ちょっと恥ずかしかったので……」
思い出して、また顔が熱くなる。
「いえいえ、僕の姉も挟まったことあるんですよ。アレ、女性の力ではなかなか抜けないですよね」
「お姉さんがいらっしゃるんですね」
「はい、こき使われてます」
はは、と笑った顔は少し幼い。
(普段、テキパキ仕事をしている様子を見ると、大人っぽく見えるのにな。昨日は、また違う雰囲気だった。どれが素なんだろう)
「アールグレイ、お好きなんですね」
「え? あ、はい。期間限定とか、たまに挑戦するんですけど、やっぱりアールグレイに戻ってしまうんです」
(固定客の顔だけじゃなく、オーダーの内容も覚えてるんだ。さすが接客業)
「僕も好きですよ」
先ほどの笑顔とは違い、真顔のような、ほんの少しだけ微笑むような彼と目が合い、芽依は固まった。
(いや、アールグレイがね! うん!)
「そ、そうなんですね。良い香りですよね」
返事に間が合ったうえに、声が上ずった。
(かっこわる。いい歳して……)
