Cherry Blossoms〜黒に咲く紅〜




黒羽村は、人口約三千人ほどの村だ。瓦屋根の家と田んぼしか周りにはなく、子どもたちは隣町の学校へバスで通っているのだそう。そして、この村に診療所など医療を受けられる場所はない。

「どこで村人を診察するんですか?」

オリバーが訊ねると、「あそこで」と慎之助が指差す。そこにあったのは、他の家よりも一際大きい屋敷だった。

「ここの村の地主の家を貸してもらって健康診断をします」

慎之助は言い、立派な門の横に取り付けられたベルを鳴らす。大きな屋敷に一花たちは驚いていた。

「こんな立派なお屋敷の一室を貸してもらえるなんて、ありがたいわね」

「何で俺らが手伝う必要があるんだ?全然平和なところじゃないか」

一花とヨハンが話す中、門が開いて着物を着た使用人と見られる中年女性が姿を見せる。深々と頭を下げ、「ようそこいらっしゃいました」と言う。だがその言葉は、どこか冷たさを含んでいるように桜士には思えた。