生徒会室を飛び出して、駆け足で校門へと向かうと、ハヤトくんがいた。

違う、私のことを待っていてくれた。

『帰ろう。もう最後かもしれないけどさ。できたら、いつもみてーに。』

『…うん。』

お互いに無言のまま校門を抜けて、帰り道を歩き始めた。

道をどんどん進んでいく。

多分、私が先に何か言わないと、ハヤトくんからは謝罪の言葉しか出てこなくなってしまう。

だから先に沈黙を破った。

『ありがとう、ハヤトくん。会長のこと、怒ってくれて。』

『大したことはしてねーよ。会長、素直に聞いたみてぇでよかった。』

『意外でしたね!』

『な、コトノ。』

『はい?』

すると、ハヤトくんは立ち止まった。

今度は周りに人がいないことを確認して。

私は静かに息を吸った。

『昨日はごめんな。コトノにあんなことをしちまって。あんなことを言っちまって。本当にごめんな。』

『私の方こそ、すみませんでした。対人関係に疎い私ですから、これまでも、嫌な思いさせてたのかもって気にしてて…。』

『謝んなよ!わりーのは俺だけだ。んでよ。昨日俺がやった、みっともねぇ行いは忘れないでいい。一生、俺のことを恨んでくれ。でもよ、俺が言ったことは、全部忘れてくれよ。』

『忘れる…?』

『アレはその…、本当にごめん。男の勉強してるとか、カッとなって思ってもねぇこと言っちまった。コトノを傷つけようと思って言っちまった。だから、アレは嘘だ。そんなこと微塵も思ってねーんだ。』

『そうなんですね…。』

『そうだ。周りのヤツらに流されねぇコトノが。でも、ちょっとだけ流されてそれを気にしてるコトノが。そんな馬鹿みてぇに堅物なコトノが。そして、一生懸命に生徒会や勉強に取り組むコトノが。大好きなんだよ。』

『…!』

『多分、カンザキのヤローも同じだ。だから今のままでいーんだ。俺のクソみてーな発言は忘れてくれ。コトノが気にすることは万にひとつもねぇ。』

何も言えなくなってしまいそうだった。

だって、ハヤトくんがどれほどの想いでずっと喋っているのか、想像ができないからこそ、下手なことを言えない。

確かにハヤトくんの言う通り、昨日の彼の発言と行動は嫌だったし、怒りもあった。

だけど、たったそれだけのことで嫌いになるのは無理がある。

だから…。

大好きな人のマネをちょっとだけやってみて、この人を許したいと思う。

『…わかりました。でも、わたしもハヤトくんに言いたいことがあります。』

『なんだ?』

『これまでと同じように、これからも時々、私と一緒に帰りましょう。最後なんて言わないでください。』

『でもよぉ。』

『でもじゃないです!ハヤトくんの発言に関しては分かりました。忘れます。だけど、ハヤトくんの行いは忘れないし、許しません。』

『…ごめんな。』

『だからその罰として、これからも私の友達にします。異論は認めません。私の気が済むまでハヤトくんは私の友達にします!』

『コトノ…。』

『いいですか?これは罰なんです!罰は必ず受けるものなんです!あと、馬鹿みてぇに堅物は余計な一言です!これも許しません。だから、ハヤトくんに拒否権はありません!』

『はははっ。なんか会長みてぇだな。罰とかゆーのとさ、てめぇの意見は聞かねぇってノリも。コトノがそう言ってくれるなら、これからもそうする。ありがと…な。』

『それで良いんです。なんのことやら。』

私達はお互いに見つめ、微笑みあった。

なんとなく、くすぐったいような感覚があった。

これからどうなるか分からないけど、また新しい関係としてやっていける気がする。

しばらく沈黙が流れた後、ハヤトくんが口を開いた。

『しっかしよぉ、コトノに彼氏できたって聞いたら、同じ中学の連中、驚くだろな?』

『ふふっ!えっ?できてませんよ…?』

私の発言にハヤトくんは驚きを見せた。

『おい。どーいうことだよ?会長、ちゃんと動き出したはずだろーよ?』

『えっと、はい。会長からちゃんと告白されましたよ。でも、私が迷ってて…。』

『バーロ!何を迷ってんだ!さっさと付き合えってんだ。』

『でも…。』

『でもじゃねーって。今更ごまかせねーくらい、会長のこと好きじゃねぇか。好きなら迷うんじゃねぇ!』

『えっと…。』

『今すぐ引き返せってんだ!こっからなら、まだ学校はちけぇ!』

『…うん。そうだね。行ってきます!』

『頑張れ。』

ハヤトくんの言葉を聞いた私は、今来た道を早足で引き返した。