『落とし前は、つけなきゃなんねーな。』

コトノとの口論から翌日の昼休み、ハヤトは生徒会室の扉の前にいた。

この時間に他の生徒会役員はいない。

生徒会長だけが部屋にいる、ということをコトノから聞いていた。

歴代の生徒会長も、授業中以外はずっと生徒会室にいたらしい。

悩みや不満を吐き出せる場所として、生徒会が存在するからだ。

休み時間を使って生徒会室にやって来る生徒が少なからずいる。

そんな彼らの話を聞く為にカンザキは、学校にいる間は可能な限り、生徒会室にいた。

ハヤトは扉を叩き、部屋の中へ入った。

『どーも。』

カンザキは何かの事務作業をしているようだった。

生徒会の業務に対しては誰よりも真面目に取り組んでいる。

『申し訳ない、作業中で。すぐ片付ける。椅子に座っていてもらえますか?お茶を用意するので…。あれ?君は…?』

作業を辞めて椅子から立ち上がったカンザキは、ハヤトの顔を見て驚いた素振りをみせた。

カンザキとしては、コトノと頻繁に話している男子生徒がなぜか生徒会室にやって来た、という認識だった。

生徒会へ何の用がある?とカンザキは考えていた。

そんなカンザキを見ながら、ハヤトは口を開いた。

『お茶は要らねーです。椅子もいーや。立ったままでよ。会長さんは座って貰っても。』

『分かりました。名前とクラスと用件は?』

『俺はハヤト。G組。用件はコトノのことだ。』

『…!』

カンザキは生徒会長専用の座席に座り直したところだったが、再び立ち上がった。

ハヤトは扉を閉めた。

『彼女がどうかしたのか。』

『バーロ。どーもこーもねーよ。会長よぉ。付き合ってもねー奴に、やりたい放題すんのはどーなんだよ?』

『聞いたのか?』

『聞いたってよりは、コトノが口を滑らせたって感じだな。理由は知んねーけど。隠してはいたみてーだ。』

『そうか。』

意外にもハヤトは落ち着いていた。

昨日の彼ならカンザキに殴りかかりそうな勢いがあったが、今日は違う。

自分からは動けない、素直になれないコトノの恋を叶える為だけに、ハヤトはやって来た。

それは、コトノに対して自分がやってしまった取り返しのつかない行いに対する罪滅ぼしでもあった。

ハヤトは話を続けた。

『俺がこんなこと言うのもアレだけどよ。男ならバシッと、告白くれぇしたらいーじゃぁねぇか。』

『…。』

『まわりくどいことやってもよ…。コトノには分かりゃしねーよ。特大のど真ん中。そこに投げなきゃ、気づかねー。』

『…。』

『できるか?』

カンザキは終始、黙ってハヤトの話を聞いていた。

やがて何かを決心した様な表情を見せて、口を開いた。

『ありがとう。君に言われるまで気がつかなかった。君の言う通り。バシッと決めさせて貰う。』

『分かりゃいい。俺は教室にもどっから。』

そう言って生徒会室を出ようとしたハヤトをカンザキが呼び止めた。

『待ってくれ。』

『なんだ?』

『君はその…。良いのか?恐らくだが、君も彼女のことを…。』

申し訳なさそうにするカンザキを見て、ハヤトは大きく笑った。

『はっはっは。バーロ。これ以上は野暮だな。』

『しかし…。』

『いーんだよ。俺にその資格はねぇ。コトノを傷つけちまった俺なんてよぉ。今日はけじめつけにきただけだ。それによぉ、当て馬にもプライドってやつがあんだよ。』

『当て馬?』

『こっちの話だな。じゃあよ。2度とは来ねーから安心してくれ。お幸せに。』

そう言い残したハヤトは、今度こそ生徒会室を去った。