『…っていうことがあったんです!せっかく嬉しかったのに。結局、最後はいつも通りで…。』

生徒会が終了して、いつもの帰り道。

今日もハヤトくんと一緒に帰宅していた。

ついでに今日の出来事も報告した。

いつもみたいに楽しく共感してくれるかなと思って話した。

でも、ハヤトくんの返事はそっけないものだった。

『ふーん。良かったじゃあねぇか。』

『良かった訳じゃないですよ!ただ、なんで最後にいつも通りになっちゃうのぉ、みたいな!』

『んだな。』

あくまでも、成績1位の人が使っている参考書を手にいれたことが嬉しいんだってことを伝えたいのに、ハヤトくんは興味無さそうだ。

帰り道はまだ続くので、話もついでに続けた。

『しかしですね。会長に呼び止められた時は、ほんとびっくりしたんですよ。』

『なんで?』

『またいつもみたいに、罰とか言って膝に乗せられたり、キスされるのかなとか思って…。』

『…バッキャッロ!今、なんつったよ!?』

突如、ハヤトくんの怒号が響き渡った。

周りの通行人達も驚いている。

今になって後悔しても、もう遅い。

さすがに気が緩み過ぎていた。

いくらハヤトくん相手でも、校則違反の件に関しては黙っていた。

真面目な漢である、ハヤトくんが怒るのは予想がつくからだ。

ほんとはもっと色々やられてるんだけど…。

『あんのクソ会長。んなことしてやがったのか!付き合ってねぇヤツに手ぇ出すなんてよ!最悪だな!きもちわりぃ!』

『そのね、会長も悪気があった訳じゃないかと…。と、とりあえず、道の端に寄りましょう…。』

ハヤトくんを落ち着かせようと試みたが、無駄だった。

彼と友達になってから、5年くらいは経っている。

この状態のハヤトくんが止まらないことは、5年もあれば知る機会が何度もあった。

今の時間帯は人通りが少ない道だから、通行人への迷惑はそこまでかからないと信じている。

ヒートアップしたハヤトくんはまだ続く。

なんとかして止めないと。

『ぁんだ?結局のところ、カンザキのヤローにキスされて喜んでんのかよ!』

『そういう訳じゃないんです…。されたって言っても、一回だけですから。それにかなり前のことですし。』

『喜んでんだろ?じゃねーなら、会長を庇ったりしねーだろっ!?』

『よ、喜んでない!』

『ははっ、そうだよな!コトノって真面目ぶってるけど、実際んなこのねーもんなぁ!ほんとは男大好きだもんな!勉強って、男の勉強してんだろ?』

『なんてこと言うんですか!そんなわけないでしょう?』

『バーロ!じゃあよ。今から俺がキスしても怒らねーんだよなぁ?』

『えっ…?や、やめて!』

一瞬のことだった。

ハヤトくんからキスを仕掛けられた。

唇と唇が触れただけのものだった。

なんかすごく、すごく嫌だった。

気持ち悪かった。

私はハヤトくんを思いっきり突き飛ばした。

よろけたハヤトくんは1メートル程離れた先にあったコンクリートの壁にぶつかり、そのままもたれかかった。

壁にもたれたハヤトくんは、うつむきながらも口を開いた。

『ほらよぉ、やっぱ俺がしたら抵抗するんじゃあねぇか…。抵抗できるんじゃねぇかよ。』

『違うんです…!なんか、ハヤトくんはなんていうか。そういうの…じゃない…よ…?そういうのじゃないです…!』

あれ?

頭の理解が追いつかない。

抽象的な言葉で返した。

ハヤトくんは無表情なまま、冷たく笑った。

『はっ。そういうのじゃない?だとしたら、俺はそーゆーのだよ。』

『どういうことですか?』

『コトノ。勉強は出来るのに、っんなこともわっかんねぇんだな。』

『分からないよ…?』

理解が追いつかない私に対して、ハヤトくんは冷たい声音のまま続けた。

『バーロ。俺はよ、コトノが好きだ。っんなタイミングで言いたかなかったけどな。』

『えっ…?』

『会長がやりたい放題すんなら、俺も好きにさせてもらう。』

『そ…。』

『驚いてるみてーだな。いいか?男が女に優しくするのなんて、下心があっからだ。じゃねぇと、会長の話なんか聞きたくねーよ。興味もねぇ。』

『…。』

『色々言って悪かった。…ごめん、ごめんな。』

消え入りそうな声でそう言い残したハヤトくんは、その場は去って行った。

私は何も言えず、その場に立ち尽くした。