君と生きる冬

「おねーちゃーん!」

大きな声がして思わず声がした方を見る。

大きな音を立てて病室の扉を開き元気よく入ってきた、ランドセルを背負った小さな男の子は僕の方を見ると一瞬固まった。

そして小雪によく似た大きな目を見開きキラキラと輝かせた。

「あれー?!おにーちゃん誰ー?!」

男の子は興味津々に僕に近づき、「もしかしてお姉ちゃんのお友達?」と嬉しそうに聞いてきた。

「えっと…あー、うん」

助けてくれと小雪に視線をやれば小雪は困ったように眉尻を下げて僕に笑いかけて、男の子の方に視線を戻した。

「もう…うるさくしちゃだめだって」

呆れたように小雪が男の子に注意するも、男の子は僕のことが気になるようでまともに聞いている様子は無い。

「ねぇねぇお友達??」

はしゃぐ男の子に小雪は肩を竦め、困ったように笑いながらその頭を優しく撫でる。

「そうだよ。伊澄くんっていうの。お見舞いに来てくれたんだよ」

そして今度は小雪は僕の方に向き直って口を開く。

「この子、弟の想太。6歳。小学一年生」

小雪に紹介された想太くんは、まだまだ僕に興味があるようで、僕らの話を待ちきれないように話しかけてきた。

「お兄ちゃんは何歳?お姉ちゃんと一緒?」
「うん、15歳だよ」

「絵本は好き?貸してあげよっか?!お姉ちゃんは文字がいっぱいの本ばっか読むんだよ!」
「うん、読んでみたいかな…小雪は小説が好きなんだね」

「字がいっぱいの本は難しいけどお姉ちゃんが読んでくれる本は大好き!!」
「そっかぁ…想太くんはお姉ちゃんが大好きなんだね」
「うん!!想太でいーよ!!」

怒涛の質問攻めに一つ一つ相槌をうちながら一生懸命に答えていく。

「ごめんね伊澄くん。私友達とか来ないから珍しいみたいで」

少し申し訳なさそうにしながらも若干面白がりながら小雪が謝る。

「や、別に大丈夫。想太可愛いし」

そんな僕らのやり取りをみてるだけでも想太の目はさらに輝き出す。

「ねぇねぇお兄ちゃんは毎日お姉ちゃんに会いに来てくれるの?」

想太がすごく期待したような眼差しを僕に向けてそう問いかける。問いかけるというかこんなに可愛く見つめられたら断れる人なんていないとおもうような感じだったが。

「こら想太、毎日は無理だよ。伊澄くんだって忙しいんだから」

笑ってみていた小雪が慌ててはしゃぐ想太をたしなめる。

「いや、来るよ、毎日」

僕がそう言うと、小雪はびっくりしたように僕の方を凝視する。

「いや、毎日は悪いよ!伊澄くんには学校だってある訳だし…」
「いや、学校退屈だし。それにまた小雪と話したいから」

そう言うと小雪は数秒固まった後、困ったようにでも嬉しそうに眉尻を下げて笑った。

「ありがとう」
「やったぁー!これから毎日お兄ちゃんに会えるんだね!」

想太も嬉しそうに飛び跳ねる。
ただ僕が毎日会いに行くと言っただけでここまで二人が喜んでくれるのが正直嬉しかった。僕にしか出来ないことのような誇らしさが少し胸に広がった。