「お世話になりました」

父と共に、看護師さん達にお礼をする。

「お父さん、頑張りすぎないよう気をつけてくださいね」

看護師さん達はにこやかにそう返してくれた。

「本当だよ!私すっごい心配したんだから!」

そう言うと夏葵は父の手を握って歩き出す。

「ごめんなぁ夏葵、伊澄、心配かけて。今日はなんか美味いもんでも食いに行くか」
「ほんとっ?!やったぁ!お寿司食べたい!」

食べ物につられて簡単に上機嫌になる妹にうるさくしないよう注意しながら苦笑する。

その時だった。

外へ向かう途中で一人の少女とすれ違った。自分より少し小さめな背丈の、パジャマを着ている恐らく入院患者であろうその少女に、僕は目を奪われた。まるで魔法にかけられたかのように、透き通るような白い肌に大きな瞳を少し伏せた小さな顔から目が離せなかった。
腰くらいまである長い髪を揺らしながら歩くその少女とすれ違う一瞬の時間がやけに長く感じた。

思わず振り返ってその少女へと目を向けると、少女はすぐに角を曲って行ってしまった。

「お兄ちゃん?置いてくよ?」

夏葵の声に我に返り、慌てて二人を追いかける。

何故目を奪われたのだろう。自分でも不思議で、しばらくその少女のことが頭から離れなかった。