「桃子ちゃん!」


家を出て数歩歩いたところで隣の家の玄関が開き、困り顔のおばちゃんが出てきた。


英祐の母親で、私の両親ともとても仲がいい。


「おばちゃん、おはよう!」


慣れた関係なので今更敬語は使わずに近づいていく。


おばちゃんの手には青色の風呂敷が持たれていて、すぐに事情を察知した。


「今日も?」


「そうなあのよぉ。あの子、毎日毎日お弁当を忘れて行って、なにしてんだか」


ため息交じりに言いながらもどこか楽しそうな表情だ。


毎朝子供のためにお弁当つくりをするのが楽しいのかもしれない。


「きっと忙しいんだよ。英祐、生徒から人気があるから」


「あら、そうなの? それはよかったわぁ」


本当に心配していたようで、人気があると伝えると頬を少し赤くして喜んでいる。


「確か、今日は男子生徒たちとサッカーをする約束をさせられてたよ。英祐、運動は得意だから」