その母親が幸せになれるのなら応援したい。


心からそう思えた。


「はじめまして、及川賢人です」


低く、心地良い声で賢人さんは言う。


歌声を聞いてみたいなとぼんやりと考えた。


「理恵、挨拶して」


母親が緊張した面持ちで言う。


私は背筋を伸ばして男性へ視線を向けた。


そして自己紹介をしようとした、そのときだった。


「理恵?」


後ろからそう声をかけられて驚いて振り向いた。


自己紹介の言葉はすぐに喉の奥に引っ込んでしまう。


「え、聡!?」


思わず声が裏返る。


「なんだ聡、知り合いか?」


怪訝そうな声で言ったのは賢人さんだ。


私と聡は同時に頷いた。


「まじか。理恵が妹になんの!?」