「お!蛍きた!」
「蛍ーおはよー!」

ダッシュで廊下を走ってきて勢いよく教室のドアを開けると、それまで喋っていた優奈と桜がこっちに手を振って挨拶してくれる。

「おはよー!はぁー間に合ったぁー」

まだ先生が来てないことに安堵して思いっきり息を吐きだす。

「蛍ー遅かったねー」
「今日も!ギリギリだよ」

「全くー」と言いながら準備を手伝ってくれる二人にいつものように言い訳をする。

「だってさ!めぐみが幼稚園行きたくないってぐずっちゃうし、こうたとひなたは体操着忘れるし大変だったんだよ!」

朝から目を離せない弟妹たちの事を考えついつい勢いよく息を吐き出す。

「わー朝からご苦労さんー」
「私は弟が体操着忘れても絶対届けないわー」
「いや届けてやれよ」

笑いながら労ってくる優奈の横で軽く弟を見捨てる桜に思わずつっ込む。

そんなこんなしてるうちにチャイムが鳴り出して慌ててそれぞれの席に戻る。そこからは「早く昼休みになれー」と心の中で念じながら授業をやり過ごす。正直勉強は得意では無いしテスト期間以外はまともに勉強する気は無い。

昼休みになれば、また優奈と桜と一緒に机をくっつけて、お弁当を広げる。

「うわっ優奈の弁当おいしそう!」
「唐揚げとか優奈の好物じゃん!」

いつになく豪華な優奈のお弁当に私と桜が思わず身を乗り出してお弁当をのぞき込む。

「えへへーいいでしょー!この間のテストの点数が良かったからお母さんが作ってくれたんだー!」

嬉しそうに笑いながら自慢気にそう話す優奈はすごく幸せそうだった。

ーーーーズキッ

「…?」

急に胸の辺りに違和感を感じたような…。気のせいかな。急な違和感に内心戸惑う。
そんな私は置いてけぼりに二人の会話は進んでいく。

「うわーいいなぁ。私なんてテストの点下がったからお母さんにきゅうり入れられたんだけどー!」
「あはは!桜きゅうり嫌いだもんね」

「どんまい!」と笑いながら言う優奈を睨みながら「あの鬼婆め…!」と呟く桜。

ーーズキッズキズキ

また少し胸の辺りが痛む。

「蛍?どうかした?」
「大丈夫?」

さすがに黙りこくって俯く私に気づいた二人が顔を覗き込んでくる。

「あっ大丈夫!ちょっと考え事してただけ!」
「なーんだ」
「心配させんなー」

笑って誤魔化すと二人は軽口を叩きながらまた会話に戻っていく。

「そーいや蛍は弁当自分で作ってるんだよね」

急に話を振られ、慌てて二人の方をむく。

「うん!そーだよ!」
「うわっさすが蛍だね」
「うちら弁当なんか作れないよね」
「あはは!確かに二人は女子力ないしねー」

そう言うと「うるせー!」と二人から睨まれる。そこからまた色々な会話に花を咲かせていく。気づいたら胸の辺りの痛みは無くなっていた。

ーーー気のせいだったのかな

あまり考えないようにご飯を口いっぱいに詰め込んで余計な考えと一緒に飲み込んだ。