「おかえりなさいませ、オズ様」
「はい、ただいま。彼女が今日から妻になるフィーネだ。よろしく頼むよ」

 フィーネは慌ててリンにお辞儀をすると、リンはさらに深くお辞儀をした。
 彼女の長く艶のある黒髪も相まって、そのお辞儀は極めて美しく品があるように感じる。

(わあ……黒髪って珍しいなあ。綺麗……)

「彼女はリン。この家のメイドで君の専属でお世話してくれる子だよ」
「フィーネ様。精いっぱい努めさせていただきますので、よろしくお願いいたします」
「よ、よろしくお願いします!」

 挨拶は済んだ、かに思えたがここからの展開はオズにとって予想もできない事態となった。
 フィーネとリンはお互いにお辞儀を深くせねばという使命感からか、相手がしたお辞儀よりさらに深く、さらに深くと何度も礼をする。
 玄関口で女性二人が何度も何度もお辞儀をするという奇妙な状況に、オズは少し戸惑った。

「『礼を尽くす』とはこういうことなのだろうか?」

 オズの呟きは二人には届いていなかった──