彼女の毎日は朝から晩まで教会の掃除や庭仕事などをさせられ、そして食事は夜にわずかなパンくずの入ったスープのみ。
 夜は毛布もベッドもない寒く冷たい地下牢で眠らなければならなかった。
 フィーネがこんなひどい仕打ちを受けることになったのは、胸の跡だけではなく10年前の事件がきっかけだった。


 ある冬の日の夜に、神秘力の増幅のために女神像に夜遅くまで熱心にお祈りしていたフィーネは、灯りが欲しくてろうそくをたてた。
 そしてお祈りと共に捧げる神秘の水を汲みに外に出たとき、ろうそくの火が老朽化の酷い木の床に引火して礼拝堂が燃えた。
 実は一緒にいて聖書を読んでいた親友の聖女が居眠りをしてろうそくの火を落としたことが原因で、そのことは水汲みから戻ってきたフィーネも知っていた。
 礼拝堂は跡形もなくなったが、幸いにもフィーネもその親友も無事に脱出をして命は助かった。

 しかし、問題はここからだった。
 神秘力が抜群に高かった親友の「フィーネがろうそくの火を落とした」という嘘の証言のほうが信じられ、フィーネの事実証言は跳ね返された。
 その日以降、「罪人聖女」の烙印を押されたフィーネは地下牢に閉じ込められる日々となった。

 そして先日神父によって子爵の妾として買われる予定だったが、うっかり胸の跡を見られてしまい気味悪がられて破談になった。
 聖女というだけで箔がつき、手に入れようとする貴族が多いが、フィーネはいつも何かしらの理由で買われることはなかった。

 やれ愛想が悪いじゃあ、肉付きが悪いじゃあ、一番ひどいのはフィーネの翡翠色の目が気に入らないと言って買いに来た日に連れて帰らなかった貴族もいた。
 実際にひどい話ではあるが、フィーネの協会での虐げられた日々と比べれば、引き取られるだけでありがたいと感じていた。
 神父も罪人で出来損ないの聖女が早くいなくなることを願っていた。