エリート国際弁護士に愛されてますが、身ごもるわけにはいきません


英利への恩義で成立したこの結婚を、大和から解消しようと言い出す確率はゼロに等しい。

ならば瑠衣が手を離すべきだが、彼を愛してしまい、自分から別れを言い出す強さも持ち合わせていない。

(自由にしてあげたいのに、自分からは動けないなんて矛盾してる……。でも一年待っても子供ができなければ、お父さんだってなにか考えるかもしれない)

他力本願この上ないが、瑠衣に子供ができなければ、父が後継者について考え直すかもしれない。

自分の血筋に事務所を譲りたいと考えているであろう英利には申し訳ないと思いつつ、その日の夜、近くの婦人科を検索し受診の予約を入れた。



「ねぇ、如月法律事務所への行き方ってわかるかしら?」

外出のため鍵を預けに来た宿泊客から、馴染みのある場所への行き方を問われ、瑠衣は驚きに一瞬息を飲んだ。

首都の中心にあるこのホテルアナスタシアは、日本人はもちろん、海外からの観光客や仕事で滞在するビジネスマンも多く利用する。

それゆえフロントに目的地への行き方を尋ねてくる客は少なくないが、父の経営する法律事務所の名前が飛び出してくるのは三年勤めてはじめての経験だった。

鍵に記載してある部屋番号と宿泊者名簿を手早く照らし合わせ、目の前の女性客の名が井口沙良だと確認する。