ふと正面に座る大和を見ると、彼もまた食事の手を止めてニュースに見入っていたが、瑠衣の視線に気付くと小さく微笑み、箸を動かし始めた。
「父や大和さんは、こういう案件を専門にしているんですよね」
弁護士といえば法廷で戦っているイメージが強いが、大和の専門は企業法務。中でもM&Aに多く携わっていると聞いている。
「まぁここまで大きい案件はそうそうないけどね」
大和は再びテレビに視線を移した。
法律事務所を営む家の娘でありながら、そういった知識がまったくない瑠衣は、テレビから流れてくる三兆を超える金額も株式の話も、なにひとつピンとこない。
恥を忍んで「M&Aってよく聞くんですけど、実はあまり意味がわかってなくて」と打ち明けると、大和は呆れることも笑うこともしないで教えてくれた。
「M&Aというのは合併と買収の頭文字を取ったもので、業務提携を含む企業戦略全般を言うんだ。株式譲渡や資本提携なんかを説明しだすと余計ややこしく感じるだろうから、簡単に言えば、現状のまま業務を維持していくのが難しい企業を、他の企業が買い取るシステムと捉えるのがわかりやすいかな」
「えっと、言葉が悪いけど、会社の身売り的なことですか? でも今のニュースだと、どちらも大企業ですよね」
「そうだな。業績がいい会社でも後継者がいなかったり、買い取る側の企業がコストを掛けずに新規事業に参入したい時なんかにはよく用いられる手法なんだ。今のニュースの案件は後者に近い。できる限りウィンウィンの関係で契約締結に持っていくのが俺たちの仕事だ」
「なるほど」
夫がどういった仕事をしているのかを知らないままではいけない気がして、瑠衣は頷きながら大和の話に耳を傾ける。



