「どれだけ聞いても奥様のこと教えてくれないから、僕が事務所を代表してこうしてご挨拶に来たんじゃないですかー。こんなに可愛らしい奥様だなんて、みんなが知ったらびっくりしますよ」
やはり事務所の所長の娘と所属する弁護士の結婚となると、色々と憶測が飛んでいるのだろうか。
英利は正式に大和を後継者として指名をしたわけではないと言っていたけれど、この結婚で周知の事実となったはずだ。
瑠衣の存在が見えないがゆえに余計に好奇心を煽ってしまっているのかもしれない。
矢面に立つ大和が煩わしい思いをしていないといいのだけれど、と瑠衣は心配になった。
「正直、政略結婚みたいなものなんじゃって囁かれてましたけど、この様子じゃそういう訳でもなさそうですね。先生、奥様にベタ惚れって感じですし」
怒涛の勢いで話す久保に圧倒されていると、大和が彼を無視し「行こう」と瑠衣を促した。
「人の結婚をどうこう言う暇があるなら、今週中に例の製薬会社四社の調査書を頼む」
「四社を今週中⁉ ちょっと待ってくださいよ、先生ー!」
大和は芝居掛かった悲痛な声を出す久保を放置し、地下鉄の改札に繋がる階段へ歩き出す。
慌てて振り返って小さく会釈をすると、久保はすぐににこにこと笑顔になって、姿が見えなくなるまで手を振ってくれた。
階段を降りきると、大和がため息混じりに口を開く。



