「日本にこだわるのはなぜ? 今の職場に弱みでも握られているの?」
沙良がじろりと瑠衣に視線を投げる。
所長の娘を押し付けられ、今の事務所を退職できないのだと推測したというところだろう。
昨日までだったら、大和が瑠衣と結婚したのは英利への恩義ゆえなのだから、弱みと捉えられても仕方がないと、彼女の言い分を真に受けて落ち込んでいたかもしれない。
しかし、彼の気持ちをすべて聞いた今は、沙良の棘のある言葉にも傷つきはしない。
険しい視線を瑠衣が毅然と受け止めたのが気に入らないのか、沙良は眉を顰めた。
「お飾りの妻なら、夫の邪魔をするべきじゃないわ」
「井口。それ以上瑠衣を侮辱するなら、俺にも考えがある」
「だって……おかしいじゃない。R&Tはアメリカでも五本の指に入るほど大手なのよ? 世界中から仕事が舞い込んでくる。そんな事務所から求められているのに」
食い下がる沙良に、大和はきっぱりと自分の意見を述べる。
「俺がなによりも大事にしたいのは仕事でも金でも名誉でもない。妻の瑠衣だ。日本にもやり甲斐のある仕事はあるし、俺の恩師であり彼女の父親が守ってきた事務所を託された。瑠衣と事務所を守っていく以上に大切なことはない」
沙良は信じられないと目を見開き、首をゆっくりと横に振った。



