昔から如月家を見て理想的だと感じていた家庭を、今度は自分の手で瑠衣とともに作り上げていく。
特段子供好きというわけではないが、瑠衣との子供は可愛いに違いない。
そう思っているのに、なぜ瑠衣は大和に黙って避妊薬を飲んでいたのか。
考えられるのは、先日瑠衣と親しげに話していた男の存在。
仕事終わりに瑠衣と待ち合わせをしていたいつもの駅に向かうと、彼女がスーツ姿の男性に声を掛けられているのが見え、遠目でも彼が大和の依頼人、佐藤孝弘だと知れた。
彼は大学卒業後すぐに友人とIT企業を立ち上げ、自身もシステムエンジニアとして業績を上げている優秀な男だ。
大和の目から見ても会社に対する思いは熱く、仕事に誇りを持つ素晴らしい青年だと思う。
提案したM&Aについてもよく勉強していて、以前は多少不安がありそうだったが、腹を決めたのか一昨日の打ち合わせでは清々しい顔で契約に向けた話を聞いていた。
当然仕事に私情を挟むことはしないが、雑談の最中に佐藤の口から出た〝学生時代の彼女〟というワードに、ピクリと反応する。
『昨日、偶然再会したんですよ。俺、ついやり直さないかって口走っちゃって』
『そう、ですか。……首尾はどうでしたか?』
前日に見た瑠衣と佐藤の親しげな様子が脳裏に浮かび、聞かずにはいられなかった。



