涙ながらに叫ぶ瑠衣を見つめたまま、大和は時間が止まったかのように固まった。

恩師である瑠衣の父、英利から託されたのは、事務所の将来と瑠衣自身。

大和にとって事務所を継ぐ継がないは二の次で、瑠衣を手に入れられるならそれでよかった。

大手の法律事務所を運営していくのは生半可な覚悟ではできないのは理解しているし、任された以上は全力で取り組むつもりだ。

しかし、大和にとってそれはおまけの話にすぎない。

恩師の希望を叶えたいと、それを口実に、ずっと好意を寄せていた瑠衣との結婚に漕ぎ着けた。

卑怯だとわかっていたが、今までもぎ取るのを我慢していた果実を目の前にぶら下げられれば、どんな手段を使っても手に入れようと必死になるものだ。

それに、事務所を信頼できる者の手に託すことで次の世代へバトンを渡し、困っている人の助けになる場所をなくさないよう繋いでいきたいと願っている英利の気持ちもよくわかる。

前回の健康診断では何事もなかったが、本人が言っていたように年齢を考えればいつまでも元気でいられると楽観視するのも賢明ではない。

大きな法律事務所のトップとなればなおさら、引退後の展望図は綿密に固めておきたいのだろう。