瑠衣の結婚が恋愛抜きの懐妊契約婚だっただけに、報告は仕事抜きでも仲のいい梓と上司である部長と課長、書類上必要な人事部だけにしかしていなかった。

しかし、いよいよ『今回こそは合コン付き合ってよ!』という誘いへの断り文句が浮かばず、正直に『実は先日結婚しまして……』と打ち明けるに至った。

馴れ初めを聞かれても困ってしまうため、質問攻めにする同僚を躱し、逃げるが勝ちと急いで支度をして抜け出してきたのだった。

時刻は午後五時半。帰宅ラッシュの時間とあって、地下鉄のホームへ続く階段にたくさんの人が吸い込まれるように入っていく。

その流れをなんとなく目で追いながら大和を待っている瑠衣は、ふいに男性の声で名前を呼ばれ我に返った。

「あれ、もしかして、瑠衣?」

声の主を探そうと視線を向けると、懐かしい顔が目に驚きを湛えてこちらを見つめている。

「やっぱり。瑠衣だよな」

百七十センチ後半の身長に、ほっそりとした体つき。塩顔と呼ばれる一重の目元に薄い唇、男性にしては色白な彼は、瑠衣と目が合うなり片手を上げて走り寄ってきた。