英語を勉強したかったものの、ひとりで海を渡る不安から留学を躊躇してしまったとはずかしそうに話す瑠衣は、ニ年間カリフォルニアで勉強してきた大和に尊敬の眼差しを向けてきた。
いずれは向こうで活躍したいかという問いに、実際は考えてもいなかったくせに、なんとなく格好をつけて『機会があれば』と答えたのは、ひとえに瑠衣のその眼差しをひとり占めしたいと考えたからだ。
しかし瑠衣と会う機会は多くなく、恩人の娘の彼女を積極的に口説くのも躊躇いがあった。
八方塞がりのまま矢のようにニ年が過ぎ、そんな時に聞かされたのが、英利からのあの提案だった。
寝耳に水の話だったが、大和にとってはまさに棚ぼた。彼女を手に入れられるなら、事務所を継いでもいい。
大手法律事務所の所長という地位にも経営にも興味はなく、ずっと如月法律事務所でいちパートナー弁護士として勤めていくつもりだったが、恩返しになるならと大きな事務所を継ぐ覚悟を決めた。
なにより、瑠衣を妻にできるのなら喜んで引き受ける。
そう思い、すぐにプロポーズをした。
断られそうな気配に、必死に『彼の望みを叶えたい』と恩師を口実に使ってまで強引に結婚に持ち込んだのは、瑠衣を他の男に取られたくなかったからに他ならない。
ひとり娘である瑠衣が弁護士にならなかったのに多少の罪悪感を抱き、父親の勧める男と結婚するべきだと感じているのは、彼女の家族思いの性格から推測できた。



