部室の中は私とシュン、2人だけになった。

一応、3月31日の年度末までは園芸部は残る。

それまでは私達の部室として使用ができる。

種が入っていた小袋を鞄の中にしまった。

大切に育てようと思う。

『わたしらも帰ろっか!片付けだけして!』

『あぁ。』

そう言って私達は片付けと軽い掃除をした。

その間、お互いに無言だった。

サクヤさんからの贈り物が置いてあった棚の上に、もうひとつの箱を置いた。

当たり前だけど、ノゾミ先輩だけに卒業祝いの品を用意した訳じゃない。

全く同じ物を用意してある。

根拠は無いけど、サクヤさんは必ず、もう一度この部室に来ると確信している。

だから、置いておいて問題はない。

受け取ってくれるはずだ。

作業が終了して、本当に帰るだけになった。

『出よっか。』

私はそう言って、机の下に置いてあった鞄を手に取った。

でも、鞄を落としてしまった。

シュンに腕を軽く掴まれたから。

『ちょ、まてよ。帰るのか?』

『…帰らないの?』

『もういいんじゃねぇか?』

『何が…?』

聞くだけ無駄なんだろうなって思いながらも、尋ねてしまった。

本気の表情を見せたシュンの鋭い眼光が、私のことを捉えて離さない。

これまでも何回か良い雰囲気になっては、うやむやになってきた。

『サクヤのヤローはもういない。』

『だってわたし、サクヤさんのこと…。』

『だからなんだ?』

『えっ?』

『ヤヨイ、俺のこと…。』

ついに決着をつける時が来たみたいだ。

シュンは分かっていながら、ここまで待った。

私は逆に動かないといけない。

自分の中にある複数の気持ちをぶつけた時に、答えが出るのか分からないけど。

しばらくの間、見つめ合った。

沈黙を破って、私は口を開いた。

ここからはもう止まらないって決めた。

『…好きだよ。』

『ほら。』

『でもサクヤさんを…。』

『別に、一瞬だけマジになっただけだろ?』

『どうなんだろ…。』

『最後は俺のモノになる。そう踏んでここまで一緒いたんだ。』

『なんで…?そんな一途なの?わたしには分からない…。この学校、たくさんいるじゃんか!かわいい子も、美人な子も、優しい子も、特技がある子もいっぱい!なんで、迷わないの?おかしいよ!』

『おかしくていい。ヤヨイが好きだ。理由とかもうよく分からん。気がついたら、好きなまま2年も経ってた。』

『嬉しいこと言ってくれるんだね。初めてかも。何か言われて、こんなに嬉しいの。』

『…うるせぇ。』

『シュンってさ。シュンはさ。』

『…んだよ。』

『背、デカいよね。それなら、わたしは黙って待つだけ…。』

『…いいのか?』

『…残りの1年間もよろしくね!新しい関係としてね?』

『あぁ。幸せにしてやる。こっちは2年間も待たされたんだ。覚悟しろよ?』

『…。』

『…。』

『んんんっ…!』

『ん…。ふぅ…。』

雰囲気に呑まれたわけじゃない。

自分の意思でキスを待った。

恋人同士として初めての口づけは、確かな幸せを強く感じた。

私の悪い部分も全部受け入れてくれた、彼の強引な優しさが全身を包んだ。

それがあまりにも嬉しくて、嬉しくて、泣いてしまったけど、何も言わず抱きしめてくれた。

新しい幸せな日々が始まる。