50分間の授業が終了して、休み時間になった。

軽く腕を伸ばしストレッチをしていると、前方からリナさんが俺の席までやって来て、話しかけてくれた。

『ジロウくん。リカちゃんと仲良しなのは分かるけど、授業中は静かにしないとダメだよ?』

リナさんが俺の頭上で微笑んでいる。

『仲良くねーよ!マジで!』

咄嗟に否定したが、同じくらい速くリナさんも否定した。

『そんなことないよ!リカちゃんがあんな感じなのはジロウくんの前だけだし…。』

『よっぽど嫌いの間違いじゃねーか?』

『間違えてないよ!だから、少しだけ羨ましいかな…。』

リナさんは言葉の後半になるにつれて、遠くの方を見つめながら言った。

俺は羨ましいという言葉に引っかかって、何も言わずにリナさんの方を見ていた。

すると、リナさんは誤魔化す様な笑顔を浮かべながら言った。

『あっ、ははっ…。そう!そういえばジロウくん、数学のプリント出してないよね?わたし、クラス委員だから放課後に持っていかないといけなくて。今のうちに書いてね!』

『マジで?ごめん、忘れてた。すぐやる!』

何気ない言葉に引っかかっている場合ではない。

俺は机の中から、慌てて数学のプリントを取りだし、問題に取りかかった。

リナさんは、クラスをまとめる学級委員を務めている。

そんな忙しいリナさんに、ご迷惑をおかけする訳にはいかない。

ちなみに、この学校は3学年、A〜Jの10クラスがある。

俺達はA組だから、リナさんはA組の委員長。

なんとなくA組の委員長って、響きが良いような気がする。

一番偉いというか…。

『ちょっとー。はやくやりなよ。あっ。そこの答えは3だよ。』

横からリカが絡んできた。

隙あらば、俺に対して口出しをしてくる。

『やるよ!やるから!嘘の答え言うなよ!』

『リカちゃん、邪魔しちゃだよ!』

『はーい。』

空返事をしたリカは、ハンドグリップを左手で握り、休み時間によく読んでいるスポーツ雑誌に目を落とした。

『頑張ってね!』

そう言ってリナさんは手を振りながら、自分の席へと戻っていった。

その時に袖がまくれて、左手首につけた木製の黄色い腕時計が見えた。

一瞬のワンポイントがかわいい。

ってか、やっぱ、優し過ぎるんだよなリナさん。

俺がプリントを出していないことにも気づいてくれたし。

最後は俺にエールを送ってくれたし。

とはいえ、問題を解くのは面倒だ。

ちらっと左側を見た。

意外だけど、リカは俺なんかよりも成績が良い。(当然、リナさんは成績上位勢だ。)

授業はあまり熱心に受けていないが、テストの順位は真ん中より上位には常にいる。

リカは雑誌に夢中のようだけど、ダメ元で話しかけてみた。

『あ、リカさ。答え見せてくんない?』

『絶対に嫌だ。っていうか、プリントはもうとっくにリナちゃんに提出してるし。』

『だよな…。』

即答された。

俺は諦めて、もう一度問題を解き始めた。

もう少し優しくしてくれてもいいのにな。

それでも、リカのことを嫌いにはなれない。

なんていうか。

リカが誰よりもかっこいいってことを、知っているから…かな。