『いつから見てたんだ…?』

俺は教室の入り口の前に立つリカに尋ねた。

リカは教室の扉を閉めた後、静かに答えた。

『見てたというか、外から聞いてた。2人に気づかれないように。根拠は無いし、直感なんだけどさ。リナちゃん、今日なんかするんじゃないかと思って。ジロウも落ち着きなかったし。』

『…部活はいいのか?』

『遅れるって言ってあるよ。そんなことよりもさぁ。ジロウはリナちゃんの質問に答えないの?』

『それは…。』

簡単に答えられるわけがない。

ちらっとリナさんの方を見ると、無言のまま下を向いてしまっていた。

『リナちゃん…。』

『…。』

優しい声で名前を呼んだリカが、ゆっくりと近づいて来た。

『あたしのことを評価してくれていたことはすごく嬉しい。留学する本当の理由も知れて良かった。これから始まる挑戦も、心から応援してるし、一番の味方だよ?』

『…。』

『でもね。あたしの気持ちは…!あたしだけの問題!相手が妹であっても。』

『あの…。リカちゃん…。ごめんね…。わたし…。』

そしてリナさんは両膝をつき、泣き崩れてしまった。

『もういいから…。』

『ごめんね…!』

優しく呟いたリカは左足を床につけ、リナさんを抱き寄せた。

あー、リカはお姉さんだったんだな。

ずっと見ていたつもりでいたけど、気がつかなかった。

『…こうなった以上は。覚悟を決めるしかないかなー!』

立ち上がったリカが元気よく言い放った。

そして俺達の視線が交わった。

やはり照れ臭い。

『リカ…。』

『もっと早く、素直になるべきだった。いつも陰ながら…?応援してくれてありがと。バレバレだったけど!』

『はははっ。そうだよ。丸メガネニット男は俺だよ。ずっと見てたよ。ずっと応援してたよ。誰よりもな!』

お互いに顔を合わせて笑いあった。

でもそれは会話がおもしろかった訳じゃなくて、全身がむずかゆい様な気がするから。

『あたし達は似てるから…。素直になれないから。言い出せない気持ちとか、そういうのは分かるよ…。』

『そう…だな。』

『ジロウの応援があるから。これまで頑張ることができた!戦ってこれた!そして…。あたしもリナちゃんと一緒。』

『…。』

『ジロウのことが好き。だからこそ、さっきの質問には真剣に答えて。』

『…分かった。』

リカの力強い眼差しも、俺を捕らえて逃がさない。

本気なんだって、伝わってくる。

そして、俺だって本気だ。

本気で2人のことが好きだ。

2人が戦っていく全ての挑戦を、一番近くで応援したい。

『ジロウくん。』

リナさんは涙を勢いよく両手で払った。

そして、覚悟をした表情を見せて立ち上がった。

『ジロウ。』

リカは変わらず、力強い眼差しを向けたままだ。

2人の視線は俺のことを決して逃がさない。

こんな俺なんかを好きだと言ってくれる人がいる。

そんな人間が同時に2人も現れるなんて。

でも、選ばないといけない。

贅沢な話だけど、選ばないといけない。

恋愛だけは、選ばないといけない。

答えを出さなくては。

多分、俺は神様に嫌われている。

この先もう二度と、こんなにも幸せで苦しくて残酷な選択は無いと信じている。

大きく息を吸った。

そして、言った。

『ありがとう。本当にありがとう。こんな俺なんかを好きと言ってくれて。ずっと仲良くなりたかった2人と。一緒にいれて幸せです。ありがとな…!』

『…。』

『…。』

『でも俺は…!』