楽しい夏休みが終わり、新学期が始まって、3週間ほど経過した高校2年生の2学期。

秋とは名ばかりの厳しい暑さが続いていた。

教室内は、エアコンのおかげでキンキンに冷えている。

今は5限目の授業中。

俺は教科書を机の上に立て、顔を隠しながら、先生の話を黙って聞いていた。

正直、退屈だった。

いや、楽しい授業の方が少ないな。

ふと教室の右斜め前の辺りを見た。

今日もかわいいな、リナさん。

そう思いながら俺は、中央の一番後ろの席から、大好きなクラスメイトのことをそっと眺めていた。

誰にもバレないように。

この時間が、最近の俺のお気に入りなんだよな…。

『…いけっ!』

『いてっ。』

『ふふっ。』

突然、左の頬に痛みが走った。

俺は反射的に左側を向き、小声で言った。

『いってぇな。消しゴムの角を投げるなよ…。』

隣の席から攻撃を仕掛けてきたのは、大好きなクラスメイトのリナさん…ではなく、その姉のリカだった。

リナさんとリカは正反対な性格の双子で、俺が授業中眺めてたのはリナさんだ。

よくクラスメイト達に間違えられているみたいだから、もう一度。

俺が眺めていたのはリナさん。

消しゴムの角を投げつけてきたのはリカだ。

『いやいや。ウチの妹をニヤニヤして見てる方が悪いね。』

そう言ってリカは、悪戯が成功した子供の様に笑った。

それにしても…。

リカがリナさんと双子なんて、今でも信じられない。

顔はそっくりだが、中身が全く違う。

リナさんはまじめだし、清楚だし、優しいし。

髪型は素敵なサラサラゆるふわロングヘアーだし。

授業だって誰よりも真剣に受けている。

それに比べてリカは荒っぽいし、すぐ怒るし。

授業中は飽きると遊び始めるし。

ついでにリカが姉なのも信じられない。

この双子が似ていないことを嘆いていてもしょうがないか。

俺はすぐに消しゴムの角をハサミでカットして、球を用意した。

そして、リカの右の頬を狙い、指で飛ばした。

『っしゃ、いけっ。』

『いたっ。やったなジロウ!』

『はははっ。っしゃあ。』

右の人差し指から放たれた豪快なシュートは、見事命中した。

シュートを受け、予想通りに怒ったリカが、俺の方に向かってきた。

『もう許さない!3倍返しにして…。』

『お前らぁ、さっきからうるさいぞ!』

突如、先生の怒号が教室中に響き渡った。

当然だ。

授業中に2人で言い争いをしていたら、注意をされるに決まっている。

教師に目をつけられると厄介だ。

これ以上は騒がない方が良い。

これまでの授業でも既に何度か注意を受けているから、手遅れかもしれないけど。

もう一度教室の斜め前の方を見ると、リナさんが笑っていた。

ならいっかぁ。

リナさんの笑顔には、何もかもを許してしまう力があると思う。