勇次「………オレ………」


茜「……何?」






勇次「ここで茜とトレーニング出来るのも今日が最後だ……」





茜「え…………」





茜「え、どう言うこと??」


勇次「親父の仕事の都合で転校しなきゃいけなくなった」


茜「え………」




私は彼との時間がずっと続くものだと思い込んでいた……




茜「転校て……そんな急に……」


勇次「ひと月ほど前にチラッとは聞いてたんだけど……オレにとっては『またか、今回は早かったな』ぐらいのもんだった」


茜「え……本当に転校するの?」


勇次「あぁ……」


勇次「中学の時もこんな時期だっただろ?」


茜「そんな………」




勇次「ただ……」


茜「ただ?」


勇次「今回の転校は今までとは少し違うんだ」


茜「え…?」


勇次「オレ、この高校だったら親父の転勤に付き合わずに一人暮らししてもいいかな?て思い始めてたんだけど…」




茜「だったら……」




勇次「今回の親父の転勤先……オーストラリアなんだ」


茜「オーストラリア!!?」


勇次「あぁ……で、親父の会社ってのはテニス用品扱ってて、この前の秋季大会の優勝のことをちよっと話したらしいんだ」


茜「………」


勇次「そうしたら現地法人がジュニアのアカデミーのスポンサーやってて、よかったらアカデミーのハイスクールプログラムで留学してみないかって言ってるらしくって」


茜「え………すごいじゃん……」


勇次「それで現地に話聞きに行ってたから学校休んでたんだよ」


茜「そうだったんだ……」


勇次「オレ……テニスで……世界で戦ってみたい!てのはずっと思ってた……」


勇次「でも親父の転勤は二年に一回は必ずあるから、正直諦めてた……」


勇次「でも今回はそれがチャンスに変わったんだ!!夢が一歩近づくんだ!!」





茜「……勇次の夢なら行けばいいじゃん!」


茜「てか、行くべきだよ!!行かなきゃ!!」




勇次「茜………」




勇次「いいのかよ……」




茜「何で?あたしに引き止められる理由なんてないよ……」


勇次「お前……」




茜「行ってきなよ!……てか、もう決めたんでしょ?」




勇次「………悪りぃ」






茜「次の近畿選抜、絶対優勝するから!!」




茜「だから勇次も……絶対に世界で勝って!!」




勇次「おぅ、もちろんそのつもりで行くんだよ!!」





茜「約束だよ!」




勇次「……わかった」




茜「途中で逃げ出したらそっちまでぶっ飛ばしに行くからね!!」




勇次「フフッ、怖ぇーな」






勇次「ありがとな」




茜「うん、元気で……」




そして彼が自転車のところまで行き、サドルに跨り走り出そうとした瞬間、


私は心の中で抑えていた感情が爆発して叫んでしまった……



茜「好きだったんだよ!!!」



茜「あたし……勇次のこと、好きだったんだよ!!!」




漕ぎ出そうとしていたペダルが止まり、背中を向けたまま彼も叫んだ。




勇次「オレもだよ!!!」


勇次「オレもお前のことが好きだったよ!!!」




茜「忘れないからね!!絶対忘れないから!!」




勇次「オレもだよ!!!」




勇次「いつか……世界のトッププレーヤーになって帰ってくるからな!!」




勇次「その時は……」




茜「その時は……?」







勇次「じゃあな……」




と、彼は振り向き一度だけ頷きペダルを漕ぎ始めて行ってしまった……





私は呆然と立ち尽くしていた。






すると木陰から




「茜……」




と、呼ぶ声が………




第二十話へつづく…