政略結婚から始める熱愛偽装






 その夜、神楽夫婦は定刻通りに集結した。


 

 チクタクと大きなノッポのアンティーク時計が時を刻む最中、二人は全く同じ体制でダイニングテーブルに座る。



 仕事終わりでスーツ姿の政宗。そして同じく、専業主婦にはならなかった雪乃もまた、他所行きのワンピース姿で、テーブルの上に両肘を立て顔の前で両手を組み、その左右から相手を睨むのだ。




「…聞いたか?」

「えぇ…勿論。」



 まさかこんな日が訪れようとは、夢にも思っていなかって二人。

 久々に夫婦の会話は、まるで死への瀬戸際。漂うオーラはドス黒い。


 結婚は出来たものの、人として好きになれそうにない。そんな二人の前に立ち塞がるのは、共通の言葉。



“良縁”…頭の良い二人だから意味は理解出来る。だがしかし…



「夫婦とは…」

「適法の婚姻をした男性と女性。妻夫、夫妻とも言う。男性を夫と呼び、女性を妻と呼ぶ。…だそうよ。因みにウィキペディア参照よ。」

「でかした。」


 真面目な顔して何が始まったかと思えば、初歩的なミスを犯している事に気付く夫婦なのである。