春うらら、桜舞う美しい情景が広がる日本庭園にて、国中のありとあらゆる業界人達が集う花見会が開催された。
この会場の演出者は、神楽組が主体として担い、来賓者の持て成しに尽力していた。
庭園内に建てられた歴史ある建造物の中では休憩所を設け、豪華絢爛な生け花が顔となる。
「皆様本日は、お忙しい中お集まりいただき有難う御座います。」
訪問着姿の複数の婦人の前で、極めて可憐かつ強かな雰囲気を放つのは、撫子色の色留袖で粧した神楽家の新妻だ。
透き通る様な純白な肌。余計な事をせずとも美しいお顔の作り。しゃんとした背筋は洗練されたもの。
どの角度から観察しようとも隙一つ見せない完璧な女性。
それが、神楽 雪乃(旧姓:白金)である。
「お日柄にも恵れ、今日という素晴らしい会を迎えられた事を嬉しく思います。咲き乱れる桜には見劣り致しますが…屋内の生け花を私が担当させて頂きました。」
色彩鮮やかな春の装い。それを背景にするも、より一層己を際立たせられるのは、恐らく
彼女だけだろう。
挨拶もそこそこに、拍手喝采で会が始まると、押し寄せるご挨拶の嵐を掻い潜り姿を消した雪乃は、来賓者から見えぬ位置へと辿り着くと、肩幅程に脚を広げ背を丸くした。
「…ったく、あの野郎何処行きやがった。」
その声色は、つい先程まで同じ口から発した物とは思えない程の低さ。尚且つ、口調は荒々しい。
