終身雇用だが、果たしていつまで働いてくれるのか…。
自身は二十代の若造。相手は親の親世代。神楽組では下請けの職人で腰の曲がった爺さんが、未だ現役で工事現場に立っている。
だがしかし、相手は女性だ。
足取りはキッチンへと進むと、立ち止まってしまった。
新婚生活始まって五ヶ月弱、嫁のエプロン姿を見たのは初。
否…家で嫁の姿を見たのは、昨日と今日で二度目。
「あら、おかえりなさい。」
「…ただいま。」
ぶっきら棒に返事する。仁王立ちしてお玉を片手に、使用人が作ったであろうカレーを火にかける姿は、あの雪乃からは想像がつかない光景だ。
「なに突っ立ってんのよ、さっさと着替えてきたら?」
大変棘のある雪乃の口調に、政宗は離しかけた意識を取り戻すと、軍隊の如く回れ右して二階へと上がっていった。
旦那政宗が去った後、雪乃は温め終えたカレーを皿に装うと、パタパタと足音を立てて四人掛けのダイニングテーブルに対角線になる様セッティングしていく。
次に冷蔵庫の野菜室から葉物を取り出すと、それらを適当に千切り盛り付けオリジナルのドレッシングを掛ければサラダの完成だ。
この時、雪乃は失敗している事実に気付いてはいない。